綾瀬アヤは、怪しい男に狙われていた。
思い当たるふしはあった。
彼女は、テレビ局で綾取りのコーナーに出演していたが、じっと見ていた男があったのだ。使用したのは愛用の印象的な色使いの綾取りヒモなので、遠くからでも目立った。今でも首にかけて肌身を離さないが、結果として彼女の居場所を宣伝していた。
彼女はともかく家路を急いだ。
怪しい男もスピードを上げた。
このままでは家に到着する前に追いつかれる。
彼女はその場で振り返った。
「しつこい男ね。私はこう見えても綾取り名人よ。このヒモであなたを縛るぐらい朝飯前。そして警察に突き出してやるわ」
「ごめんなさい。どうしてもその綺麗なヒモが欲しくて」
怪しい男は謝った。
(遠野秋彦・作 ©2015 TOHNO, Akihiko)