2015年08月06日
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三百字小説『綾取り名人綾瀬アヤ』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 綾瀬アヤは、怪しい男に狙われていた。

 思い当たるふしはあった。

 彼女は、テレビ局で綾取りのコーナーに出演していたが、じっと見ていた男があったのだ。使用したのは愛用の印象的な色使いの綾取りヒモなので、遠くからでも目立った。今でも首にかけて肌身を離さないが、結果として彼女の居場所を宣伝していた。

 彼女はともかく家路を急いだ。

 怪しい男もスピードを上げた。

 このままでは家に到着する前に追いつかれる。

 彼女はその場で振り返った。

 「しつこい男ね。私はこう見えても綾取り名人よ。このヒモであなたを縛るぐらい朝飯前。そして警察に突き出してやるわ」

 「ごめんなさい。どうしてもその綺麗なヒモが欲しくて」

 怪しい男は謝った。

(遠野秋彦・作 ©2015 TOHNO, Akihiko)

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