ミズーリ州からやって来たその男は商売が下手だった。
何を売っても買い手が付かない。
最後には「水でも売ってろよ、ミズーリ出身だけに」と馬鹿にされる始末だった。
やけくそになって、彼は水を売り始めた。
「ミシシッピ川の美味しい水だよ」
なぜかその水はよく売れた。
しかし、ミシシッピ川からここまでは遠いが、水を運んでいる様子は見えない。
不思議に思った彼の友達はそっと質問した。
「水はどうやって運んでいるんだい?」
「運んでなんかいないよ。そこの川には名前が無いというので、ミシシッピ川と名づけてそこから汲んでいるんだ」
(遠野秋彦・作 ©2016 TOHNO, Akihiko)