「最近の傾向を見ていると、日本の自称【パソコンマニア】のレベルの低下は著しい。痛々しいほどだ」
「技術知識がどんどん失われて、ググって30秒で解決する問題ですらググらず問題も解決せずいつまでも愚痴を垂れ流す人ばかりってことだね」
「Windows 10の悪評もかなりの割合はそこ。確かにマイクロソフトのやり方には落ち度もあったが、解決できないほどの難題でもなかった。でも解決できな人は多かった。特に日本では自称【パソコンマニア】の多数派が解決できずに、レベルの低さを露呈した」
「彼らに反省はないの?」
「ないね。そんな自覚はないもの」
「それがテーマ?」
「いやいや。そうではないよ。ここで問題は、自称【パソコンマニア】の多数派が、技術情報に詳しい人たちではなく、デマの拡声器になっていったのはいつからか、という歴史的な問題を考えてみたい」
「歴史の問題って、昔からデマ体質はあったの?」
「そうだ。たとえばWindows Vistaが失敗作扱いされたのも間違いなくデマ由来だよ」
「なるほど。みんなで言えばデマも真実であるかのように流布されるわけだね」
「そうそう。証券会社の人までWindows Vistaは失敗作だと言っていて驚いたことがある。専門外なのにOSの善し悪しが分かるなんて何かがおかしいと思わないかい? 要するに世間の評判を言っているわけだ」
「ではVistaの時代にデマ体質は始まった?」
「それよりずっと前に、みかん星人事件の時既にデマ体質はかなりあったと思う」
「それはいったい?」
「要するにみかん星人事件というのは本格的なマイクロソフト叩きが始まった頃なのだが、まあほとんどデマを基にした叩きだったよ。裏付けがない」
「ふーん。じゃあ、みかん星人事件って何だったの?」
「単にマイクロソフトのライバル企業群が一人勝ちするマイクロソフトをみんなで引き下ろそうとする運動に、正義と信じたマニアが動員されただけだろうな。おそらく」
「それほど面白い話ではないね」
「そう。それほど面白い話ではないが、面白おかしく脚色してあった」
「じゃあ、みかん星人事件がマニアのデマ体質の発端?」
「いや。それ以前にOS/2というものがあってな。マイクロソフトとIBMの蜜月が終わった後ぐらいに、次の本命のOSはWindows 3.1かOS/2かという時代もあってな。この時のOS/2はWindowsよりも素晴らしいという話も1つ1つ検証していくといろいろ問題があってな。おいらはOS/2ではダメだと思って、Windows NTかPC UNIX(Linux等)を本命だと断言したら珍獣でも見るように見られたよ。でも実際は今のWindowsはWindows NTの子孫だし、Linuxは大流行だ」
「その時既にマニアはデマ体質だったのだね」
「そう思う」
「ではそこが始まり?」
「いや、よく考えるとそれよりもっと前に、32bit CPU不要論というのがあってな」
「それはなに?」
「高速の16bit CPUがあればどんなアプリも快適に動くから高価な32bit CPUは不要という主張だ」
「それもデマなの?」
「ああそうだ。当時のメモリ拡張規格にEMSというのがあってな。32bit CPUに内蔵されたページング機構で実現すると専用の特殊なハードを買わずに超高速に実現できると分かって立ち消えたよ」
「なるほど。デマがデマと分かってしまったわけだね」
「やはり論よりソース。実行できるソフトがあってそれで結果を示せるとデマは覆る」
「そこがデマの始まり?」
「いや、そうでもない。その前にEPSONの98互換機の話があってな」
「それはなんだい?」
「当時売れ筋のNECのPC-9801シリーズというパソコンがあってな。EPSONが互換機を開発した。安い互換機を買う方が賢いという論調は確かにあったよ」
「互換性があるならいいじゃないか」
「でもね。実は漢字フォントが準拠する規格が違っていて、一部の文字が化けたんだよ」
「ダメじゃん」
「そう。だから安い互換機を買って万事解決とは行かない。あれもデマの一種だろう」
「そのあたりがルーツ?」
「いやいや。よく考えるともっと恐い話を思い出した」
「それはなんだい?」
「1970年代後期にはCPUに80派と68派というのがあってな。80派というのはインテルの8080CPUを支持する派閥。68派というのは、モトローラの6800というCPUを支持する派閥だ」
「それで?」
「電卓あがりの8080は命令セットが汚いが、より上位のミニコンの流れを汲む6800は命令セットが直交していて美しく使いやすいと言われていた」
「それで?」
「でもね。実際の6800は命令が直交もしていないし、使いやすくも無かった。たぶん、本当に使いやすいのは6809という後継CPU以降だろうと思うけど、当時はまだ無かった」
「分かった。その頃からデマ体質はあったわけだね」
「そうだな。ハード的に言えば、6800の方が扱いやすかったが、ソフト的にはそうでもなかった。結局、優れているはずの68派が80派を駆逐できなかったのは実際には優れていなかったからだろうと思うよ」
「そんなものかね」
「だからさ。80派の後継CPUはZ80、68派の後継OSは6809になるが、未だにZ80のコアは使われているらしいが6809はあまり話を聞かない。そもそも、我々が使っているCore i7などのCPUは80派の末裔だし。そんなものだろうな」
「じゃあ、デマ体質のルーツは1970年代後半にまで遡るわけ?」
「おそらくな」
「それ以上遡る可能性は?」
「1970年代後半の時点で既にパソコンという用語は存在しない。当時はまだマイコンだ。そして、もっと昔まで行くともはやマイコンブームすら発生せず、マニア達もほとんど存在しない世界に行ってしまう」
「デマ体質云々ではなく、そもそも対象層が存在しなくなってしまうわけだね」
「おそらくな」
「でもさ。そうなると、【産まれた時から既にデマ体質を内包していた】という恐い結論になるぞ」
「きっとそうなのだろうな」
「で、デマに染まらない何か方法論はある?」
「ともかく、ソースを書こう。それも、10行ぐらいの勉強用ソースではなく、ちゃんと実用として使えるものをな。その過程でたいていのデマはボロを出す」
「そんな簡単なことでデマがボロを出すなら、なんでみんなデマ体質なんだ?」
「ソースを書いてないからだろう」