2016年09月12日
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民定憲法ではないどころか、欽定憲法ですらない・第3の憲法スタイル?

Written By: 川俣 晶連絡先

「さる政党の改憲案をざっと見たことがあるのだが、まず憲法というものをまるで分かっていない素人が、素人臭い文章で書いた作文という感想になった」

「それは、国民主権という前提がない古めかしい欽定憲法ということかい?」

「いやいや、欽定憲法ですらないのだよ」

「えっ?」

「WikiPediaを見ると憲法の分類はこうなっている」

制定主体による分類

制定の主体に着目して憲法を分類することもある。

欽定憲法

君主によって制定された憲法(大日本帝国憲法など)。

民定憲法

(直接または間接に)人民によって制定された憲法。

協約憲法

君主と人民により制定された憲法。

条約憲法

連邦国家の憲法がその構成主体間の条約によって成立した場合のもの(ビスマルク憲法、アメリカ合衆国憲法など)

「つまり、自分が見た改憲案はこの4種類のどれにも該当しない」

「だから素人の作文という印象になったの?」

「それだけでなく、文章そのものが素人臭いってこともあるのだけどね」

「法律の硬い文章を回避するのはそれはそれで良いことではないの?」

「堅い柔らかいの問題でなく、文章そのものが素人臭いのだよ。子供っぽいと言い換えても良い。責任ある大人が書く文章ではない」

「ぎゃふん」

「さて、それはまだ前提の話だ」

「まさか。まだ話の続きがあるの?」

「道を歩いているときにピンと閃いた」

「どの分類にも当てはまらない改憲案の正体が?」

「そうだ」

「欽定でもなく民定でもないとすると誰が決めた憲法なんだよ」

「与党だな。しかし、たかが一政党が憲法を私物化するのは無理だ。政府が制定する憲法と思った方が良いだろう。議会も同一政党が多数派を占めていることが前提となる」

「政府が定めた【政定憲法】? でも、それはおかしいよ。憲法から政府や議会の行動を縛る機能性が無くなってしまう」

「それは逆なんだよ」

「というと?」

「縛りを撤廃するための【政定憲法】なんだよ」

「なぜ縛りを撤廃する必要があるの?」

「民主的にやっていたら絶対に通らない理念を実現するためさ」

「それはなんだい?」

「見ていれば分かるよ」

「じゃあさ。最高権威の法律となる憲法を政府が制定して、そこで天皇の扱いを定義してしまったら、天皇はどうなるのさ。天皇は政府よりも格下ということになって、左翼が望む天皇のいない人民国家にならないどころか、右翼が望む天皇陛下を崇拝する世の中も来ないぞ」

「うん。そこなんだよ。最大の問題は」

「どんな問題なんだい?」

「実は、最近、複数の右翼的な言動を繰り返す人から【自分たちの主張を何も分かっていない馬鹿な今上天皇はやめさせろ】という主旨の発言を聞いた。どうも、天皇崇拝は現在の右翼のスタンダードでは無いようだ」

「まさか」

「最近、右翼の左翼化が激しいからね。弱体化してフェードアウトしつつある左翼の活動領域を右翼が食っている」

「赤旗が赤い日の丸に変わっただけで、やってることは似ているわけだね」

「まあ似ているのは昔からだがね」

「ぎゃふん」

「それでも、昔なら【それは左翼の得意技】と言いたいことを右翼がやってたりするから世の中は変化している」

「分かったぞ。自分たちに都合の悪い天皇がいると困るから、政府の方が上位に立って天皇すらコントロールするのが彼らの理想なのか」

「そう。だから、欽定憲法であってはならないのだ。彼らの理想の世界を実現するために、天皇と国民と国家は自らがコントロール可能な存在でなければならない」

「右翼の理想は大日本帝国憲法の復活ではないの?」

「天皇が右翼の味方になるとは限らない現実が突きつけられた状況で、右翼が天皇を頂点とする国家の復活を望むとは思えない」

「真に望むのは彼らの傀儡の天皇を頂点とする国家のみということだね」

「そうだ。【朕はそのような国家を望まぬ】などと言わせたらダメなのだ」

そして結論へ §

「で、最終的にこの話はどこにいくの?」

「うん。ハッと気付いた。つまり憲法を政府自らが定める【政定憲法】国家とは、ファシズム国家そものだってことだ」

「ファシズムって意味が曖昧でよく分からないよ。もうちょっと明確にして」

「そうだな。では言い直そう。昭和初期の日本のような国家形態。挙国一致国家と言った良いかな。より具体的には、長引く不況と国際的な孤立を解決するために挙国一致で頑張らねば生き残れないという主張を掲げて、国民の思想生活を統制支配する国家。具体的な方策は領土の拡張と軍事力の行使となる」

「それで?」

「そして、おまえ達は強いと嘘を国民に吹き込んでいるうちに自分たちまで強いと錯覚して、勝てない相手に戦争をふっかけて負ける」

「負けちゃダメじゃん」

「だからダメなやり方なんだよ」

「どうすればいいんだよ」

「だからね。戦争はやっちゃダメ。勝敗に関係なく、戦争をやれば他国からカモられるだけ」

「分かった。自国は戦争をやらずに他国の戦争から儲けろってことだね」

「そうだ。それが豊かになる秘訣だ」

「アメリカは戦争をふっかけてもいいの?」

「絶対に勝てる戦争はやってもいいよ。そこから儲ける方法はいろいろある」

「たとえば?」

「米中ロみたいな超大国が弱小国家を攻めるとか。国際連合軍に参加して圧倒的な兵力で【ならずもの国家】を蹂躙するとか」

「じゃあさ。憲法を政府自らが定める【政定憲法】国家であっても、【ならずもの国家】を打倒する派兵に参加する形の戦争ならいいわけ?」

「ははは。何を言ってるんだよ。その場合の【政定憲法】国家とは、国際連合軍に制裁される【ならずもの国家】そのものなんだよ」

「ぎゃふん」

「なぜ世界は日本の【政定憲法】国家化に反対しないのか? それはみんなで制裁する悪党国家が必要とされているからだよ。さあ民主主義も知らない幼稚な民族に民主主義を教えに行こう。銃を持って」

「なんで見てきたように言うんだよ」

「昭和10年代の出来事を語ってるだけだよ」

「で、この話は信じていいの?」

「信じるなよ。別に憲法の専門家でも法律も専門家でもないからな。単なる思い付きを言ったまでのこと。それに、他人の言い分を検証もしないで丸ごと信じるのは馬鹿のすることだ」