2016年10月10日
遠野秋彦の庵小説の洞 total 1127 count

三百字小説『自分の身の丈を知らない巨人の悲劇』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 どんな山より高い巨人は欲しいものに何にでも手が届きました。ある日彼に夜空に浮かぶ月をおねだりする人が出現しました。しかし取れません。巨人はあれを夜空に描かれた絵に過ぎないと確信しました。

 「月は実在しますよ」

 「おまえは月が実在することを確認したのか?」

 「いいえ」

 「俺は手を伸ばして実在しないことを確認したぞ」

 巨人は一生月は存在しないと信じて死にました。

 彼の巨体を埋葬できる土地は地球上になかったので、月面に専用墓地を作って埋葬されました。

(遠野秋彦・作 ©2016 TOHNO, Akihiko)

遠野秋彦