2017年05月11日
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三百字小説『尻すぎた男』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 彼は椅子職人だった。

 彼の得意技はクライアントの尻の重さをぎりぎり支えられるだけの軽量椅子だった。別の誰かが座るとすぐ壊れてしまうのだ。

 今日も大女優Xがやって来て、椅子を発注した。彼は尻の重さを計測して驚愕した。細身の女性なのに尻が重いのだ。

 彼は大女優Xの秘密を知ってしまった。

 知りすぎた男となった彼は逃亡者となった。

 そして、ストレスで暴飲暴食を繰り返し、彼は太った。

 ある日、飲み屋から帰ると彼は椅子に座った。すると、椅子は壊れた。

 彼の尻もまた重くなっていたのだ。

 彼は像が踏んでも壊れない頑丈な椅子を作るようになり、大女優Xからも絶賛された。

(遠野秋彦・作 ©2017 TOHNO, Akihiko)

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