阿蘇山には麻生さんが住んでいた。
麻生さんの悩みは自分の名前と山の名前が紛らわしいことだった。
「麻生山の阿蘇さん?」
「阿蘇山の麻生です!」
山から離れないとダメだと思った麻生さんは海軍を志願した。海軍にいれば海だ。軍艦『阿蘇』にでも乗らない限り、面倒は起きまい。麻生さんは用意周到に陸上勤務を志願した。麻生さんは南の島の山に設置された通信基地勤務となった。完璧だった。
しかし、ある時新任の隊長がその山を見るなり言った。「阿蘇山に似ているから、今日からあの山を南洋阿蘇と呼ぼう」
麻生さんは逃げ出した。
(遠野秋彦・作 ©2017 TOHNO, Akihiko)