2017年10月26日
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三百字小説『街唐木田少女』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 その少女は街から来たと言った。

 「どこの街だ。新宿か、渋谷か」と質問すると、「唐木田だ」という。

 誰もそんな街は知らない。

 すぐに少女の【カラキダ】は【空騒ぎだ】と言われるようになった。

 彼らは少女をいつもからかって遊んだ。

 少女は彼らにどう反撃するかを考えた。

 どう考えても唐木田で新宿には勝てない。そこで、嘘八百で反論した。

 「新宿? 渋谷? スケールが小さいわ。唐木田はね。海の向こう、唐の国にあるのよ。大陸らしく木のように巨大な稲が生育する田んぼがあるの」

 周囲のみんなはそれを本気にして感心した。少女はホッとした。

 「すげえな。唐の国って、唐揚げの本場だろ? 今度唐揚げ作ってくれよ」

 少女はずっこけた。

(遠野秋彦・作 ©2017 TOHNO, Akihiko)

遠野秋彦