松本零士 宇宙戦艦ヤマトII §
「驚いたねえ」
「何が?」
「印象が全く違う」
「どこが違うと思った?」
「テレサの通信で地球は停電してしまう。その停電中の雰囲気が凄くいい。繁栄を謳歌している地球が、はたしてこれでいいのか……という黄昏れた雰囲気が良く出ている。暗闇の中、小さく描かれた佐渡先生とか、このサイズで見ないと分からない雰囲気。アニメのさらば宇宙戦艦ヤマトにはないし、他のバリエーションにも知る限りない」
「なるほど」
「トドメとして、この暗闇にアンドロメダが降下してくる。とても印象的で象徴的だ」
のなかみのる 新たなる旅立ち §
「はっきり言ってキャラが似てない。絵が下手」
「ダメじゃん」
「ところが、感情の描き方は非常に上手い。シンプルな話の流れに合わせて感情の起伏を誇張して表現している。この表現は非常に上手い」
「それが上手いとどうなの?」
「感情のうねりとしての物語が非常に上手く描かれている。自然に物語が流れていって、印象に残る面白い物語が胸に落ちる」
「凄く誉めてるね」
「物語作りとそれを描く方法論に関しては凄くレベルが高い。小学三年向けに誇張した表現になっているという側面はあるにせよ、どんな年齢層にも適用されるべき要素はある。これと比較すると、大多数のヤマト作品は負けてしまうと思うよ」
「それは新作ヤマト批判かい」
「新作どころか旧作の大多数も負けるよ」
「たとえば?」
「映画のさらば宇宙戦艦ヤマトの古代は、都市帝国戦の後、感情的に流れを追いにくい存在に変化してしまう。取りあえず、特攻してしまうから涙を誘うが、それじゃ特攻してしまう心理に感情移入できるのかと言えば難しい。古代はどこか独りよがりだ」
「えー」
「たとえば、もしも雪の死という事件がなかったら、果たして島は大人しく退艦しただろうか。古代を無理矢理連れて行ったかもしれない」
「そういうややこしい問題がないから、のなかみのる版新たなる旅立ちは良いわけだね?」
「そう。感情の流れがシンプルで分かりやすく整理されている。込み入った状況もない。ひたすらヤマトは来てくれると信じたデスラーがヤマトの到着を見て喜ぶ。そういう単純化された流れになっていて、誇張された感情表現で話の流れに乗りやすい。だから素直に面白い。なぜ面白いのかと言えば、抑圧された感情が解放されるからだ」
「大人向きだからといって複雑化した話をやると取りこぼしてしまう客層も多くなるわけだね」
「そこらへんは分かってない人も多いけどね。子供向けに全力投球した方が凄い作品になる」
「子供向けに全力投球した凄い作品には、他に何か例がある?」
「ボンボンのMS戦記なんか凄いぞ。子供相手に非常に分かりやすい整理された話が語られているにもかかわらず、オタクの誰に読ませてもたいてい夢中になって読んでいた」
「のなかみのる版新たなる旅立ちはヤマト界のMS戦記ってことだね」
愛沢ひろし 宇宙戦艦ヤマトIII §
「いやー、これも凄い作品だ。驚いた」
「どこが凄いの?」
「いきなりラジェンドラ号が出てきて壮絶な話が始まって、やっと終わるかと思ったらガルマン艦が突っ込んできてヤマト艦内で銃撃戦になってしまう。厨房で皿を目の前にして土門、雪、平田が銃撃戦を展開する」
「シビアな」
「雪に怒られる土門といい、飯炊きになってもシビアな現実を突きつけられる土門という物語が、短いページ数でよく描かれていて面白かったぞ」
総論 §
「で、全体をまとめた結論は?」
「買って良かった」
「もっと具体的に言うと?」
「心が温かくなった」
「心が温かくなるようなものが多く読めて良かったわけだね」
「そうだな。最近は、心が冷えるものばかりだったからな」
「その感想は時代遅れじゃないのか?」
「そんなことはない。人には心がある。今でもある。物語が心を描くことをやめても変化するわけではない。遠くから冷めた視線で心を描く方法論はあるが、心が存在しない物語は成立しないだろう」
「それは情緒的な言い方かい?」
「いや。理論的な必然から来る結論さ」
「それを説明してくれよ」
「やだ。おいらは君の先生じゃないんだ。そんな面倒くさいことはやらないよ」
オマケ §
「遠くから冷めた視線で心を描く事例って何があるの?」
「たとえば、ドライブヘッド。あれは突き放した視線でキャラクターが描かれているのだが、かといって心がないわけではない」