バイキン大王は虫歯菌を呼んだ。
「お呼びですか、大王様」
「うむ。最近、南総里見八犬伝とかいう小説を書いている滝沢馬琴という男がいる。生意気だから、虫歯にして執筆できないようにしてくれ」
「ははっ。そんな重大任務を与えられて感謝感激です。この虫歯菌、命に代えても滝沢馬琴を虫歯にしてみせます」
「うむ。頼んだぞ」
「ところで、もっと重傷にできるバイキンは多いのに、なぜこの虫歯菌にその任務を。まさか、そこまで私を買って下さっているのですか?」
「それなんだが、【たきざわばきん】と【むしばきん】のダジャレで選んだのだ」
「えっ……」
「どうしたのだ」
「この任務、辞退します。粘菌にでも頼んで下さい」
「おーい」
(遠野秋彦・作 ©2022 TOHNO, Akihiko)