世間は、意図的なの偶然なのか分からない連続した悪意あるソフト(MSBlastやSobic)の話題で騒がしくなっています。話題の中身は、正しいセキュリティ対策をしましょう、という今ひとつ実効性が薄そうな掛け声から、マイクロソフトがいかに間違っているかを力説する子供っぽい正義の味方気取りまで様々です。
少なくとも、今回の一連の出来事は、この手の問題が新しい局面に入ったことを示しているように思われます。これまでは、ごく常識的な対処をしているだけで、ほとんど問題なく安全が確保されました。むしろ、あまりに何もしない無防備な人達が多かったために、猿でも騒動を引き起こせたと言って良いと思います。しかし、だんだんと猿並の知性では大した騒動を引き起こせなくなってきました。そして、騒動を起こす連中も進化したと言えます。セキュリティホールの情報に素早く対応し、状況の変化にも迅速に対応しています。また、WindowsUpdateを攻撃するような、セキュリティ対策そのものを封じようとする狡猾さも兼ね備えています。猿並みの知性でも騒動を起こせた過去と違って、人間並みの知性が使われ始めているのでしょう。
このような状況に対処する正しい方法を、我々はまだ確立できているとは言えません。マイクロソフトはセキュリティホールのない製品を出荷せよ、と叫ぶ人達もいますが、バグのないプログラムがあり得ないのと同じように、セキュリティホールのないプログラムも空想上の存在でしょう。より安全なプログラムを開発するための努力は払うべきですが、セキュリティホールのないプログラムというのは、真面目に考慮する価値もないものです。セキュリティホールは必ず発見され、現在の攻撃者の知性の水準からすれば、発見されれば間髪を入れずに攻撃されるでしょう。それを前提として、何をすべきかを考える必要があります。
それはさておき、そんな中で、セキュリティ啓蒙でも、マイクロソフト叩きでもない、ちょっとニュアンスの違う記事を見つけました。
ウイルス感染者に対して下される“社会的制裁”
https://www.zdnet.co.jp/broadband/0308/20/lp20.html
この記事を読んでどんな感想を持ったでしょうか?
この話の主役、M氏が可哀想だと思った人もいるでしょう。
ですが、私はちょっと違う感想を持ちました。
最後の文章「以前は面倒に思っていたWindows Updateでの更新を異常なまでに行うよう心がけるようになった」という部分が、とても良いものに思えました。基本的には、WindowsUpdateをまめに行っていれば、それだけで危険度はかなり下がるものです。そういうことを行う必要性をきちんと身につけて実行するようになったということは、好ましいことです。まだM氏の同僚達は身につけていないようですが、そのうちに痛い目にあって、身につける機会があるでしょう。また、身につけた人が組織内に増えてくれば、そうでない人にそれを求める機会も増えるでしょう。
そのような意味で、「学ぶチャンス」としての「大きな被害」というものは、必ずしも悪いことではないと言えます。世の中には、確かに、痛い目をみて初めて学ぶ人達がいます。彼らはけして間違っているわけではなく、人間とは本来そういうものです。結局のところ、完全に被害を無くすことはできないでしょう。そして、痛い目を通じてしか学べないとするなら、損害を通じて学ぶことで、将来起こりうるより多くの損害を回避するのが最善の選択ということになります。
