2003年09月05日
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ネットワーク化されたシヤワセな集団プログラマー/アナキストたちは、伝統的な閉鎖ソフトの階級社会を競争でうち負かすか?

Written By: 川俣 晶連絡先

 SCOとLinuxに関する話を書こうと思ったのですが、複数の問題が絡み合っているので短くまとまりそうにありませんでした。

 その際、ちょっと参考に引いた以下の文書に気になる記述を見つけたので、それについて書いてみます。

伽藍とバザール

https://cruel.org/freeware/cathedral.html

 この中の「11 マネジメントとマジノ線について」よりの引用です。

 **引用始め**

この点では、オープンソース・コミュニティのほうがはるかに高い能力を見せてきた(これはたとえば、インターネットの 30 年にわたり(ママ)歴史と、独占ネットワーク技術の短い半減期とを比べてみればすぐに確認できる――あるいはマイクロソフト・ウィンドウズの 16 ビットから 32 ビットへの移行がえらく高コストだったのにくらべて、同じ頃に同じことをやった Linux ではほとんど何の苦労もなかったことを考えてみるといい。しかも Linux はインテル専用ではなくて、64 ビットの Alpha チップも含む一ダースものハードウェア・プラットホームでそれを実現したんだぜ)。

 **引用終わり**

 斜め読みしている途中でここのWindowsに関する文章に引っかかって、「あれあれ?」という感じでした。

 まず、Linuxは生まれたときから32bitだったような気がします。16bitだったことがあるのはMINIXかも? まあそれは横に置いて、Windowsの16bit→32bitの以降と、Linuxの32bit→64bitの移行という話題を比較してみましょう。一応、前者はとても苦労したけれど、後者はあまり苦労していない、という状況は事実だと認めた上で話を進めましょう。

 最初に、そもそも16bitのWindowsとはなんぞや、ということから確認しましょう。これは、MS-DOSにGUIを拡張したものであると言えます。本当はそれほど単純な話ではありませんが、本筋から外れるのでそういうことにして話を進めましょう。MS-DOSは、インテルx86用のシングルタスクOSです。OSとすら言えないものかもしれないぐらい低機能のものです。それでも、初期のパソコンの世界では圧倒的に受け入れられ、使われました。なぜ、シングルタスクOSが使われたのか。その理由は簡単で、CPUパワーもメモリも足りないので、マルチタスクにしたからといって、必ずしも使い勝手が良くなるわけではないからです。むしろ、パソコン上にある全ての資源を限界ギリギリまで1つのタスクに注ぎ込んでも、十分とは言えなかったと言えます。ハードウェアに直接アクセスしたり、アセンブラを使ったCPUアーキテクチャに依存するチューンナップも日常茶飯事だったと言えます。それでも、MS-DOSパソコンは安く、誰でも買えたので、MS-DOSは役に立つものであったのです。

 では次にLinuxとはなんぞや、ということを確認しましょう。LinuxはUNIX互換のOSの1つという認識で(たぶん)良いでしょう。LinuxはUNIXの持つ多くの特徴を継承しています。UNIXは、もともとDECのミニコンピュータのために開発されたOSで、比較的高価、強力なコンピュータのためのものです。UNIXの1つの特徴は、低レベルの操作を記述するのも容易なC言語を標準プログラム言語として備え、OS自身の多くの部分や、様々な応用ソフトがこのC言語で記述されていたことにあります。これにより、UNIXの移植性は高く、異なるアーキテクチャのシステムに移植することは容易であったと言われています。実際、規模もアーキテクチャも異なるシステムでUNIXが動作していたそうです。もちろん、CPUのビット数も様々であったと言います。

 さて、この2つを比較すると、どういうことになるでしょうか。

 システムのアーキテクチャに強く依存するMS-DOSの世界は、アーキテクチャの根幹に関わるビット数の変更に対して弱いのは当然のことと言えます。一方、UNIX文化を継承するLinuxは、このような変更に対して適応力が高いと言えます。このことから言えば、両者の適応力の相違は、主に技術的な相違で説明可能であり、「オープンソース・コミュニティのほうがはるかに高い能力を見せてきた」とするのは、少々無理があるような気がします。

 ここで、特定アーキテクチャにべったり依存したMS-DOSよりも、アーキテクチャへの依存性が低いUNIXの方が優れている、という意見もあり得るでしょう。しかし、UNIXは企業(の研究所)が作ったOSであって、オープンソース・コミュニティが生み出したものではありません。この点でも、オープンソース・コミュニティが優れているという結論に結び付けるのは難しいような気がします。

 また、MS-DOSが生まれた時代に、MS-DOSマシンとUNIXマシンのハード価格に桁違いの差があったことも見過ごせません。アーキテクチャに依存することで安いハードでも使うことができた、という点が、MS-DOSのUNIXに対するアドバンテージだったと言えます。今は、WindowsもLinuxも同じようなハードで動かしているので、誤認しやすい問題かもしれませんが、1980年代の頃は、いくら憧れてもUNIXマシンなど買えなかったのですよ。なけなしのお金で買えるのは、せいぜいMS-DOSマシンが限界だったのです。そのような時代の資産を継承しなければならないWindowsが、16bit→32bitの移行で苦労したとしても、それは過去に甘受したメリットのツケであって、単に悪いことと片づけることはできません。

 というわけで、標題とした「ネットワーク化されたシヤワセな集団プログラマー/アナキストたちは、伝統的な閉鎖ソフトの階級社会を競争でうち負かすか?」という問いへの答は、この事例から結論を出すことはできない、ということになると思いますがどうでしょう?

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