2004年03月18日
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駄洒落から始まる洒落た創作法

Written By: 遠野秋彦連絡先

 オリジナリティのある何かを生み出すことはとても難しい。特に小説のような創作においては、とびきりの難しさを持つ。

 たとえば、こういうお話はどうだろうか、と頭の中で組み立てた場合、ほとんどは無意識的に過去に見知った何かを引きずってしまう。そのことから、所詮全く新しいものなど生み出すことはできず、過去の作品の再構成しかできないのだ、と割り切る方法もある。しかし、そのような割り切りは面白くない。たとえ、結果として過去の何かを包含するとしても、何か自分の中にはない新しいものを作品に取り込む試みを辞めたいとは思わないのである。

 では、どうすれば、自分の中に無い新しいものを作品に反映させることができるのだろうか。

論理的に組み立てる創作法 §

 1つの方法は、物語の内容を論理的に突き詰めて組み立てるという方法である。この方法は、過去のいくつかの作品で実践している。たとえば、イーネマス!などは、基本骨格をこの方法で構築している。その結果として、異世界転生モノとしては、かなり異質なものが出来上がったと思う。

 たとえば、イーネマスは剣と魔法の世界だが、主人公達が最初に出会う魔道士は、世界を滅ぼす魔王と戦うどころか、お宝探し程度の冒険も行っていない。彼女が作る電撃を封じ込めた玉は、畑を荒らしに来る野鳥を追い払うために農民が使うものなのだ。もし、人が日常を生きている世界に魔法があるなら、当然そういう使われ方をするだろう、ということは論理的に考えれば出てくる話だ。剣と魔法の世界を扱ったゲームで満たされた頭で考えるだけでは、こういう発想は出てこないかもしれない。もちろん、冒険もしない魔道士が生きている世界がつまらない、と思うのは早計である。そこには、もしかしたら悪の魔王を倒すよりも、はるかにエキサイティングなドラマがあったりするのである。これは新しいかもしれない。

 別の例を出そう。超絶無敵ロボオメガナイン殺人事件も、同じような創作法が使われている。この作品は、ロボットアニメをモチーフにしているので、基本的な部分で非論理的なところがある。しかし、いくつかのお約束を定めた後は、できるだけ論理的であろうと努めている。たとえば、ロボットも機械である以上整備が必要だとすれば、当然整備のための施設や整備員もいることになる。そこで、整備員とパイロットの関係を考えると、軍用機パイロットと整備員の関係から連想すれば、当然パイロットは整備員に頭が上がらないことになる。整備に手を抜かれたら死ぬからだ。すると、ただ一人ロボットを操縦できる立場として、誰に対しても傲慢に振る舞うパイロットが、なぜか整備員にだけは下手に出るという面白いヒーロー像が生まれることになる。おそらく、ここまで整備員に下手に出るヒーローロボットのパイロットは、ほとんど居ないのではないかと思う。(もちろん、あらゆるロボットアニメを見ているわけではないので、全く断言はできないのだが。ちなみに機動警察パトレイバーにも怖い整備員が出てくるが、整備に手を抜かれたら死ぬというシビアさはないという点で、ニュアンスが異なる)。これは、新しいかもしれない。

 しかし、これとは別に新しさを獲得するための方法があった。

駄洒落からスタートする創作法 §

 もう1つの創作法は、駄洒落からスタートするである。

 たとえば、チャーリーがチャリでやって来る目覚ましい目覚ましメザシの冒険ライナスの毛布・リナックスの毛布リスとイギリスなどが、まさにこれにあたる。これらは無料で公開している短い作品なので、ぜひお読み頂きたい。

 これらの作品の創作法は、内容よりも先に駄洒落ありきである。しかし、単なる駄洒落だけの一発お笑いネタ小説にはなっていない。それぞれには、それぞれの魂を熱くさせる気持ちをこめている。

 (厳密に言うと、ライナスの毛布・リナックスの毛布だけは、まずライナスの毛布を扱った作品を書こうという意図からスタートしていて、駄洒落ありきではない。しかし、そこからリナックスに展開していくのは、もちろん駄洒落によるものである)

 たとえば、今日公開したばかりのリスとイギリスについて言えば、本当に「リスとイギリス」とだけ書かれたメモからスタートした作品である。そこからスタートして妄想を膨らませた結果、巨大なリスが、無数のリスの住人を乗せて移動するという、おそらく前例のない奇っ怪なビジュアルが生まれた。このビジュアルの面白さだけでも、駄洒落から創作した甲斐があるというものだ。まともに自分の頭の中にあるものだけで作品を構成しようとしたら、こんな大胆に常識外れした、しかし思い浮かべてみると鮮烈な魅力のあるビジュアルは生まれようもないだろう。これは駄洒落の笑いとは全く異質の新しい魅力を、駄洒落を通じることで手に入れたことを意味する。

 無論、この魅力は作者にとっての魅力であり、読者にとっても魅力であるかどうかは、こちらの立場からは断言することができない。

 しかし、願わくば、読者もそれに魅力を感じて頂けることを願うものである。

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