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2004年08月28日
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DVD『大塚康生の動かす喜び』 これはアニメーションとアニメの違いも分からぬオタクばかりの世の中で理解されざる偉人の貴重なドキュメンタリーか!?

Written By: トーノZERO連絡先

 『大塚康生の動かす喜び』という、あまりに凄いタイトルのDVDが発売されていると知り、思わず発注してしまいました。やっと見終わったので感想を書きます。

 これは、いつ頃か忘れましたが、半年か1年ぐらい前にTVで放映された特番の再編集拡大版、というような感じの内容だと思います。収録時間が圧倒的に長い上に、更にマニアックな内容により深く「深化」しています。

大塚康生さんは凄い §

 大塚康生さんというのは凄い人だと思います。

 もちろん、アニメブームが始まった頃から名の知られた人であるし、その業績が凄いことは疑いようもありません。

 しかし、それはとうの昔に分かっていたことです。

 そうではなく、既にかなりの御高齢でありながら、的確に状況を把握して判断する能力にいささかの陰りもないことが、真に凄いと思わせます。パソコンを使った動画教室の講師まで務め、インターネット上に住み着いている平均的な若いオタクなどよりも遙かに的確にパソコンに相対すべきスタンスを述べることができているのは、並はずれた偉人と言う他ありません。

 このような偉人が、ある意味で日本のアニメ界を引っ張っていく立場にあったことは、今の日本のアニメ界の方向付けにも影響を与えたことは間違いないと思います。これは、日本のアニメ界にとって、とても幸運なことだと思います。そして、そのような評価に値するのは、宮崎駿さんでもなく、高畑勲さんでもなく、大塚康生さんに間違いないと思います。ある意味、宮崎駿さんや高畑勲さんは、大塚康生さんの用意した環境の中で腕を振るったに過ぎない、と見ることもできるでしょう。

 そういう大局的な話は別としても、現在大塚康生さんが流行らせようとしているというサムネールという手法は、なかなか興味深いものがあります。作画時に、ソフト開発で言うところのプロトタイピングに相当する手順を導入するもの、と言えるかもしれません。その方法も、このDVDの中に含まれます。

しかし理解されているのか §

 前から一度書こうと思っていましたが、はたして大塚康生さんという人物が理解されているのか、という懸念を感じます。それは、アニメーションとアニメの違いが意識されているか、という問題提起に置き換えることができます。

 たとえば、大塚康生さんが、アニメではないアニメーションの素晴らしさを語るときに、その違いが理解できず、「現在でも素晴らしいアニメは存在する」という意見を述べてしまうようなケースを見たことがあります。しかし、大塚康生さんがアニメーションについて語るとき、それは今のアニメとは異質の異なるものについて語っているわけです。アニメーションと比較して、アニメとは秒当たりの作画枚数が少なく、また止め絵の多い表現形式です。それは、動くことによって表現を行うことを基本とする本来のアニメーションとは異質なものです。秒あたりの枚数の違いだけでも表現スタイルに差が出ますが、特に止め絵で見せる部分は決定的な違いと言えます。その違いを意識したら、両者を混同することはできません。

 もしかしたら、このような相違は、自らの手で絵を動かすことを通じてしか、なかなか実感できないのかもしれません。静止画と動画の違いは、決定的なものがあって、単に連続した静止画を描けば動画になるというものではないのです。静止画と動画では、絵の見せ方が全く異なっていて、枚数の問題ではないのです。

 え? どうして、そんなことを断言できるか? それはもちろん、趣味の3DCGの世界で、制止画CGではないCGA(Computer Graphics Animation)を実際に作っていたことがあるからです。少なくとも、私の場合、静止画と動画では表現方法が全く異なっていました。表現形式の特徴を活かして最大限の見せ場を作ろうと思うと、そうなるのが必然となってしまうのです。いずれ機会があれば、それを分かりやすく示すコンテンツでも作りましょうか。

 更に言えば、そもそも今の日本にアニメファンがどれほどいるのか、という懸念すらあります。キャラクター主導のビジネスの中で、キャラクターグッズのバリエーションの1つとして作られるアニメを買う人達ははたしてアニメファンと言えるのか。静止画に過ぎない漫画と、一応は動画であるアニメを同列に買っている人達が、本当に他の表現形式と異なるアニメを愛好していると言えるのか。あるいは、声優ファンが目当ての声優が出演しているアニメを買ったとき、彼らはアニメファンと言えるのか。

 そんな懸念を意識したとき、漫画もゲームも要らない、自分は他のどんなジャンルでもなくアニメを愛しているのだと言い切れるファンがどれほどいるでしょうか。

 それは、皆が思うよりもはるかに少ないのではないか、と最近感じています。

 その上で、アニメファンから見てすら少数派のアニメーションファンなど、実は話にならないぐらいの少人数でしかないかもしれません。

 そんな状況下で、こんなにも価値があるDVDが発売されたのは、いったいいかなる奇跡の産物なのでしょうか。他にも、ジブリからは「おいおい、本当に売れるのか?」と思わせるようなタイトルが最近立て続けに出ています。それが、何かの自信の産物であるのか、それとも追いつめられた崖っぷちのやけくそかは分かりませんが。しかし、個人的にはこのようなDVDが手に入ったことを、素直に喜びたいと思います。発売され、手に入った以上は、大切にしたいと思います。

別の収穫 §

 大塚さんが作ったソフトスキンの模型の映像が入っていたこと。これは極めて特種な趣味に関する収穫でした。それから、ソフトスキンに乗ってさっそうと走る大塚さんの映像も興味深いですね。

もっと別の収穫 §

 太陽の王子ホルスの大冒険に関して、大塚さん、宮崎さん、高畑さんが各人各様の思いを語るのが実に興味深いですね。あの作品の立場の難しさがひしひしと伝わってきます。ちなみに、私がホルスを最初に見たのはTVのアニメ特番のダイジェストでした。全編を通して見たい!と思っていたら、TVで放送され、とてつもなく面白いと思いました。しかし、2回目に見たときは、重苦しくて楽しめませんでした。あまりに相反する2つの感想を抱えて、私から見たホルスの立場も複雑で難しいものになっています。関係者の語りの微妙な雰囲気が、私の感想の雰囲気と合致するところが興味深いところです。

贅沢すぎる映像特典 §

 映像特典は、本編中で大塚さんが説明を行いながら五右衛門の抜刀シーンの作画を行う過程のノーカット版です。つまり、プロが丁寧な解説を行いながら作業を開始してから完了するまでの全ての手順が、カット無しで収録されています。これは、作業者の呼吸が伝わってくるような生々しさを感じさせる、とてもゴージャスな映像特典ですね。これをオマケ扱いするのは、あまりに贅沢すぎる!

 もちろん、ただ無自覚的にアニメを見ているだけの人達にとっては、さほど意味のない内容かもしれません。具体的に、どんな作業が行われているかなど、彼らの興味の対象外でしょう。いえ、より正確には行われている作業というよりも、作業に向かい合う人間としての大塚さんの息吹に触れられることこそが真の価値と言えるかもしれません。それは物作りを行う人には、何らかの形で刺激になるのではないかと思います。そういう意味で、この映像特典が価値を持つのは、(アマチュアであろうと)少なくとも片足以上をクリエイターの側に踏み込んでいる人達だけでしょう。そういう人達には、並はずれた贅沢な映像特典だと思います。

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