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2004年08月31日
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イノセンスとビューティフル・ドリーマーとの決定的な相違点・物理現実は判定できる!?

Written By: トーノ・ゼロ連絡先

下高井戸シネマのレイトショー §

 下高井戸シネマでは、2004年の8/30(月)~9/4(土)に渡ってレイトショーとしてイノセンスが上映されます。歩いていける距離ですので、初日に行ってみました。

 とはいえ、折しも台風16号が接近中で、激しい風が吹いていました。これに雨が加わると、傘の効能が無効化されて、行き帰りの移動が水も滴るトーノZEROに成り果ててしまう可能性があります。理性的に取り組むなら、今夜は行かないのが正解でしょう。その上、金も体力も時間もないわけですし、しかもDVDは発注済みですから約一ヶ月待てばそれを見られます。それらを考えれば、そもそも行かないという選択が正解という他はないでしょう。

 しかし、行ってしまいました。理性的ではないので。

 お客さんはけっこう入っていましたね。大ざっぱに60人ぐらいはいたでしょうか。非常に当てにならないいい加減な目分量ですが。

 しかし、客層の過半数は明らかにオタクっぽくないと感じました。イノセンスが、オタクに見放された映画であることは間違いないと思いますが(オタクを褒めているわけではありませんよ。念のため)、この映画を見たいと思う別の人達が出現しているのだろうか、と思いました。

 もともと、オタクなる価値観も、既存の価値観から見放された何かを支持する人達がどこからともなく集まって成立したものですから、同じようにオタクとは別の価値観を支持する層が生まれても不思議ではないでしょうね。

ビューティフル・ドリーマーとの決定的な違い §

 よくある批判に、押井は同じことばかり繰り返しているというものがあります。

 たとえば、キムの館で虚構が次から次へと繰り返される描写は、同じ押井監督の「うる星やつらビューティフル・ドリーマー」と同じであるということが言われます。虚構から目覚めたと思ったら別の虚構の中、という繰り返しは、同じパターンであるかのように思えます。

 しかし、本当に同じことを繰り返しているのでしょうか。

 映画を見ながら、そうではないことがはっきりと見て取れました。

 まず、ビューティフル・ドリーマーを振り返ってみましょう。諸星あたるは、ラムの夢から現実に帰還すべく、あがき続けます。そして、最後に、ラムの名を叫びながら現実に帰還します。しかし、彼が帰還したと思った現実も、木造モルタル3階建てのはずの友引高校の校舎が2階建てとして描写されており、それもまた虚構であることが示されます。つまり、この作品世界の内側の者達は、虚構と現実を区別できません。

 これに対して、イノセンスのキムの館でのエピソードの場合、トグサは虚構と現実の境界を見失いますが、バトーはそれをしっかりと識別してキムに勝利します。つまり、虚構と現実は区別できるという結論になります。トグサは一連の出来事が終わった後でも、ここが物理現実だろうかと悩んでいます。しかし、バトーはそのような悩みを示しません。バトーから見れば、現実は現実であって虚構とは異なるものであると言えます。

 これは、ビューティフル・ドリーマーのような「夢」を扱ったドラマから、その後に出てきたバーチャルリアリティを扱った作品(たとえば少年ドラマシリーズの「クラインの壺」)などまで続く、「現実と虚構を区別できない」という結論を持った多くの作品群を決定的に否定する主張であると言えます。その点で、押井監督は極めて大胆かつ破壊的に新しい価値観を提示していると言えます。

バーチャルとは「存在しないもの」ではなく「バーチャルという実在」である §

 このような考え方は、最近知ったある考え方を連想させました。絶望はまだ早い? プログラミングの未来への輝ける進歩への希望がここにある? 檜山正幸さんのプログラムの正しさに関する講演資料というコンテンツの最後の方で、以下のように述べられています。

思い通りにならない他者としての「計算現象が存在する」ことは間違いない

 計算現象とは、ここではバーチャルと置き換えても良いと思います。キムが作り出す仮想現実も、これにあたると思って良いと思います。そして、それはどこにも存在しないものではなく、そこに存在するものだと言うことです。

 もちろん、存在すると言っても、具体的に形ある物として存在するという意味ではありません。手で触れることはできず直接目で見ることもできませんが、そこに何かが存在していると言うことです。

 ここで、手で触れることはできず、直接目で見ることもできないなら、存在していないのと同じではないか、と思う人がいるかもしれませんが、そうではありません。

 たとえ、手で触れることができなくても、存在している物であれば、それは現実世界の様々な制約を踏み越えることができません。一方、存在しないものは、どんな制約もいともたやすく超えていくことができます。たとえば、ハードディスクに大容量の情報を保存しようとしたとします。もし、存在しない情報を存在しないハードディスクに保存するという出来事を空想したとすると、どんな巨大な情報であろうと、保存できない理由はありません。しかし、現実に存在する情報であるならば、現実にそこにあるハードディスクの容量を超えて情報を保存することはできません。

 これは物理的な制約によって拘束される例ですが、情報そのものの性質によって拘束される事例もあります。たとえば、-1の平方根は実数の世界では計算できません。実数は、手で触れることはできず直接目で見ることもできませんが、そこに確かに存在していて、それ自身の法則性によって拘束されています。それは、人間がどのように望んだところで、変化させることはできません。つまりは、人間から見た他者なのです。

 バーチャルが、それを作り出した人間の思い通りになる「存在しないもの」ではなく、「それ自身の法則性に拘束される他者」であるとすれば、そこには別の者が付け入る隙が生じます。つまり、キムは自分が作り出したバーチャルの完全なる支配者ではなく、キムが見落とした部分があれば、そこから別の者がバーチャルに入り込んでそれを改変することも可能と言うことです。そして、改変されたことを、キムが見落とすと言うことも当然の結果としてあり得るわけです。

 それがキムのバーチャルに素子が侵入していたという状況の1つの解釈です。

 そして、バーチャルが「存在する」とすれば、バーチャルそれ自身の制約により、バーチャルによって模倣しようとする対象と完全に一致することはない、と考えることができます。たとえば、実在するキムの館と、バーチャルによって模倣されたキムの館は完全に一致させることはできず、どこかに相違点が残ると言うことです。それを冷静に見極めることができれば、物理現実と虚構は識別できる、と考えるわけです。

 実際、映画の中で、それらは完全に同じものとして描かれていません。

バーチャルの実在性という思想を語る映画か? §

 このように考えると、イノセンスは思想を語る映画だと見ることができます。

 しかも、とてつもない破壊力を持ったとんでもない思想を語っています。過去の自分の作品すら否定しています。(押井監督の、この素晴らしき若々しさと野心を見よ!)

 この他にも、破壊された人形のことを考えなかったのか、と助けたばかりの人間の女の子に声を荒立てるバトーといった、とんでもない台詞にも思想性がありそうです。

 そこで問題になるのは、なまじ攻殻機動隊や押井監督に詳しい(と思い込んでいる)人達によって、このような思想性が見落とされているケースをあちこちで見かけることです。

 実際に映画を見ながら実感しましたが、あまりに多くの箇所で直接的な台詞によって、多くの思想性のある言葉が語られています。しかし、それにも関わらず、それらはある種の人達から、ごっそりと見落とされています。

 その理由としては、やはり攻殻機動隊の続編という企画の枠組みがあるのではないかと思います。いろいろな資料を見る限り、押井監督自身は攻殻機動隊の続編を作りたいという気持ちはなかったものの、それしか必要な予算を獲得する手段がなかったためイノセンスを作ったのだと思います。つまり、押井監督が作ろうとしたものは、攻殻機動隊の続編などでは全く無かったと言うことです。それをジブリの鈴木プロデューサは的確に理解したことで、タイトルを「攻殻機動隊2」から「イノセンス」に変更させたような気がします。しかし、その程度の変更では先入観のバリアを突破できなかったのでしょう。

 しかし、そのような問題を踏まえても、この映画が語る内容は実に意義深いものがあると思います。紛れもなく、それはこれから我々が生きていく21世紀のために必要な思想です。そしてそれは、しょせん20世紀の価値観を提示したに過ぎないビューティフル・ドリーマーとは別次元のものだと思います。

 特に、バーチャルの実在性という思想は、特に21世紀を生きるための重要な知恵として強調する価値があると思います。少なくとも、IT業界に見られる「明らかに実現できないものを、実現できると主張して売り込む」詐欺まがいの行為に適切に向き合うためには、情報が思い通りにならない他者であるという思想は必須でしょう。

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