2004年12月04日
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拙速は巧遅に優る という格言は拠り所になるのか?

Written By: 川俣 晶連絡先

 オータムマガジンの1つの特徴は、名前の手前に付く言葉が不定期にしばしば変わることです。

 ちょっと前までは「微速後退! オータム マガジン」でしたが、今は「拙速は巧遅に優る! オータム マガジン」です。

 「拙速は巧遅に優る」というのは、いままさに私自身が自らの身体に課そうとしている行動態度です。

 しかし、それは単に私個人の問題としてではなく、より広く採用されるべき普遍性を持つ1つの知恵であると思います。

言葉に関する補足 §

 先に補足しておきます。

 正しくは、巧遅は拙速に如(し)かずと言うようです。

 ただ、この表現は現代日本語としては分かりにくいので採用していません。

 また、「拙速は巧遅に優る」の「優る」の部分は「勝る」と表記するものが多いようですが、あえて字として勝敗の「勝」よりもすぐれるという意味の「優」を使いたいと思います。「拙速」とは、単に勝つための手段というわけではなく、それは勝敗を超えて優れた選択であると思うからです。

それはどういうことなのか §

 「拙速は巧遅に優る」とはどういう意味かといえば。

 それは、下手でも早くやった方が良い、いくら上手くやっても遅ければ悪い、ということを意味します。つまり、ここでは「速いか遅いか」「上手いか下手か」という2つの価値観のみが問題にされています。もちろん、「早くて上手い」という状態が良いのは言うまでもありません。そして、「遅く下手である」というのが良くないことも言うまでもありません。問題は、上手さと速さを両立できない時に、どちらを優先すべきかということです。

 それに対する答えとして、「拙速は巧遅に優る」は、「速さ」を優先せよ、ということを言っています。

たとえば今日の経験から言えば §

 たとえば、今日の私の仕事は、とあるJIS規格を書くことでしたが、何せ日本語のTRと、それとは別物と言って良いほど改変されたW3Cにある英文があり、それらを元に独特のルールに満ちたJIS規格文書を作らねばなりません。

 あまりの悩ましさに、1~2日ほど作業がほとんど止まったぐらいです。

 しかし、今日は「拙速は巧遅に優る」という格言を思い出して、間違っていようと不適切であろうと構わないから、とりあえず文書をでっちあげてみようと思いました。

 そして、規格本文は、おおむね形になりました。

 この事例から、「拙速は巧遅に優る」という方法の価値をいくつか見出すことができます。

 まず、とりあえず形になれば、精神衛生に良いと言うことはいえます。

 しかし、それだけが価値ではありません。

 まず、実際に書いてみることで、分かることと分からないことの区別が付けられるようになりました。つまり、自信を持って言葉にできる部分と、そうではない部分があると言うことです。これが分かれば、次に何をすれば良いのかが見えてきて、行動の指針になります。

 もう1つは、形になれば他人が評価できると言うことです。たとえばJIS方言などに詳しい人に見てもらえば、私も気付かない不適切な表現も分かるでしょう。

 では、もしも「巧遅」優先で作業をしたとすると、どうでしょうか。

 様々な規則や情報をチェックし、それでも自信が持てずに逡巡することになるでしょう。しかし、作業には締め切りというものがあります。それに、私もほとんど金にならないJIS規格書きにばかり時間を使っていてはお財布が空っぽになって路頭に迷ってしまいます。つまり、「巧遅」優先とは、時間を掛けて上手くやることではなく、時間切れによる破綻を意味することになります。破綻させたくなければ、ぎりぎりまで追いつめられた状態でやっつけ仕事をするしかありません。それは、「巧遅」ではなく「拙遅」ということになります。

なぜ拙速は良いのか §

 上記の事例から拙速には3つの長所を見いだせます。

  • 作業が進んでいると精神衛生に良い
  • やってみることで、分かる部分と分からない部分が明らかになる
  • 作業結果が形になるので、他人が評価できる

 この3つの特徴は、全て前向きの好ましい特徴です。

 一方、「巧遅」には特に前向きの特徴を見いだせません。

更に拙速から始める品質向上の可能性も §

 この3つの特徴は、品質を上げる切っ掛けとして活用可能です。

 言い換えれば、実は「拙速」とは品質を上げるための手法としても使えるということです。もちろん、拙速でありさえすれば品質が上がるわけではありません。手早く乱雑に作業して終わり、という結果も拙速のうちです。しかし、意識的に「拙速」という手法を活用しようと思うなら、それは「巧遅」よりもより品質を高められる可能性も秘めていると考えられます。

余談 §

 エクストリーム プログラミングも、一種の「拙速は巧遅に優る」という思想に立脚した手法ではないかと感じます。

 エクストリーム プログラミングを高く評価するのは、けして新しく格好良いからではなく、このような既存の外部の考え方と照らし合わせて妥当であると評価できると思ったためです。

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