2004年12月27日
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シリーズ総論 なぜ、男と男のドラマなのか。その本質的な理由

Written By: トーノZERO連絡先

 蒼穹のファフナーのシリーズ「全体」について、残ったトピックを書いてみたいと思います。

「あなたはそこにいますか」という名台詞 §

 「あなたはそこにいますか」という問いかけに答えると同化されてしまう、という設定は、当初、非常に分かりにくいものでした。この問いかけは、まるで対話可能な相手を求めるものであるかのように聞こえます。しかし、対話を求めているのに、相手を同化してしまうとはどういうことなのか。

 その答えは、非常に分かりやすい形で示されましたね。

 個という概念を持たないフェストゥムという存在が、個という概念を敵として認識した場合、「あなたはそこにいますか」という問いかけは「個」という概念を持つ相手を識別する適切な質問として機能します。つまり、フェストゥムには「あなた」も「そこ」も存在しないわけですね。全ては1つですから。それに「はい」と答えれば、それは敵です。

 つまり、この台詞は、序盤においては「違和感バリバリで何がどうなっているのか気になる台詞」として視聴者を引き込む機能を持ち、そして中盤以降はシリーズのテーマの一面を象徴する短く分かりやすい台詞として機能します。一粒で2度美味しいという、実に上手い台詞ですね。

男と男の問題 §

 本作品が、男性オタク層に対してウケが悪い最大の要因は、一騎と総士という二人の男の子が、極めて深い絆で結ばれている話であるためかもしれません。

 では、本作品が男性同性愛愛好者の女性達(ヤオイ)向け作品なのかというと、そういう感じでもありません。

 美少年を並べてヤオイ層の人気を取ろうという態度は、たとえばガンダムSEEDなどには見て取ることができますが、それとは明らかに一線を画しています。本作品は、むしろ極めて健全なほどに男女の比率が均衡しており、それぞれに見せ場が準備されています。この健全さは、美少女を並べて男性オタク層に媚びることも、美少年を並べて女性ヤオイ層に媚びることも潔しとしない志の高さであると思って良いと思います。むしろ、媚びるよりも、ストレートに重要なメッセージを伝えようとした作品、と思って良いと思います。

 であるならば、なおさら主人公たる一騎と最も親しい相手が同じ男の総士であるという状況が奇異に見えます。

 この答えは中盤当たりから見えてきました。

 本作品が、たとえ痛みを感じようとも対話することの素晴らしさを描くために生まれたとすれば、当然、対話こそが作品の主題となります。しかし、仮に作品中における最重要の二人が男と女であるとすれば、この二人は対話ではなく、本能的に惹かれ合う男女の特質によって関係を結んでしまう可能性があり得ます。男女の関係は、一種の精神的な快楽であり、それは対話の痛みを中和してしまう可能性もあり得ます。このような、対話を必須とせず、しかも痛みを快楽で中和してしまうような関係では、とても対話の痛みなど描ける訳がありません。

 それゆえに、本作品は一騎と総士という二人の男の子を中心として描かれねばならなかったのでしょう。

 しかし、そのような理由から明らかである通り、男色的な快楽を匂わせる展開には進みません。それは、男女の関係が本作品に不適切であるのと同じ意味で、不適切と言えます。

 そして、そのことを明示するためにこそ、第3の人物である真矢という少女が二人の間に存在している必要が生じます。

 つまり、本作品の主要登場人物の構造は、一騎と総士がいて、その中間に真矢がいることによって成立します。この構造は、エンディングのイラストに描かれた3名の構図が象徴的に示していると言えます。逆に言えば、エンディングのイラストは、そのような作品の重要なポイントを1枚の絵で示した秀逸な存在であるとも言えるかもしれません。

2004年最優秀ロボットアニメ §

 私が見ている範囲(地上波VHFのうちの一部)の中で言えば、2004年最優秀ロボットアニメはこれであると断言しても良いでしょう。2003年は出撃!マシンロボレスキューの名前を挙げたいと思いますが、2004年は文句なくこれです。

 その感は、むしろ、ガンダムSEED DESTINYの放送開始によって強まった感があります。ファフナーがこれだけやっている状況で放映開始するというのに、ガンダムSEED DESTINYはこれしかできないのか!という驚き、苛立ち、そして絶望。

 確かにガンダムというブランドの中でも、SDガンダムフォースは良い作品だと思います。しかし、これは日本の伝統的なロボットアニメの流れの上には無いものです。ファーストガンダムから、イデオンを経て続く、先鋭的なロボットアニメの熱い流れは間違いなくガンダムというブランドではなく、ファフナーにつながっていると思います。

 それはロボットをどう描くかという問題ではなく、強い思想的な問題意識を作品の中に叩き込むという圧倒的な態度そのものの問題です。

 もちろん、オタク層がそのような思想的問題意識の受け手として全く不充分であることは、新世紀エヴァンゲリオンのブームの結末で露呈してしまっています。そのような状況を前提にして、本作品は、不充分な相手に対して、より分かりやすくあろうとする努力をよく払っていたと思います。そこは、とても高く評価したいところです。

 とはいえ、そのような努力が通じたかは、かなり心許ない印象も受けます。しかし、それでも対話するための努力は行うべきであって、努力は高く評価したいと思います。たとえ痛みがあろうとも対話を行うべきであるということは、本作品「も」訴えかける1つの真理であるだろう、と思うがゆえに。

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