面白かった!
既にVol.5がとっくに出ているというのに、Vol.4を今頃読み終わりました。
ですが、このVol.4は凄く面白くて、ほとんど全てを読みました。
記号への嫌悪 §
Vol.4をきちんと読み始めるまでにかなりの時間を置いてしまったのは、要するに特集の白倉由美作品がイマイチ良く分からないという理由によります。
しかし、この判断は間違いでした。
私は、文学よりも文学者を面白がるタイプなので、作品が分からなくても、白倉由美という人物が面白ければOKなのです。
そして、まさに白倉由美という人物は面白いタイプでした。
たとえば、漫画は記号の塊だと認識して、記号を嫌悪し、小説に転向していくところは、私からすれば「よく言った!」という拍手すべきところです。記号の氾濫がもたらす害について無自覚な人が多すぎると思いますが、少なくともここに自覚していた人がいるわけですね。それを知ることが出来たのは、とても良かったと思います。
みなもとたろう吠える §
相変わらず、みなもとたろうが吠えています。
漫画史観をひっくり返すような凄いことを言っていて面白いですね。
歴史は突っ込むと面白いですが、まさにそこに突っ込んでいます。
香山リカの弟 §
香山リカの弟のインタビューがもの凄く面白いですね。
プロレスなどは分からないので、書かれた内容はほとんど理解できませんが……。
しかし、姉はいじめられなくては駄目なのだ、などという弟の台詞は面白すぎます。
読みたくないものが含まれる §
凄くナイスだったのは、以下の言葉ですね。
p502 大塚英志さんいわく
もっとも、常に「読みたくないもの」がついてくる、というのは僕が作る「新現実」シリーズのポリシーであるのだけの話だが。
良いですよ、このポリシーは良いです。
だからこそ、思いがけないものが含まれていて、刺激になるのです。
黒丸尚の思い出 §
おたくの花咲く頃 特別版(荷宮和子)で、オペラ座の怪人での戸田奈津子の誤訳に怒る人を指して、怒りの根本原因は映画そのものにあるのに、誤訳のせいで映画そのものに怒りをぶつけずに済んでいる……というのを読んで思いだしたことがあります。
むかし、サイバーパンクの元祖とされるウィリアム ギブスンの「ニューロマンサー」という小説が訳されて日本で出版された時、黒丸尚(くろまひさし、と読むらしい)の訳がめちゃくちゃでけしらん、という怒りの声が溢れたことがあります。面白いSF小説の新ジャンルだという噂が海の向こうから伝わってきたのに、訳のせいで面白い小説が台無しだというわけです。でも、現実には、これはさっぱり面白くない小説だったようです。言ってみれば、田舎者が夢見た技術の幻影みたいな内容であって、日々パソコンを最先端で使いこなしているような技術者から見れば「それは違うだろう」的な描写が満載。それどころか、そもそもサイバーパンクというジャンルそのものが、さして面白いものではなかった様子。それを踏まえて考えると、黒丸さんの訳は原文のムードを良く再現した誠実な訳だったという説もあります。黒丸さんに文句を言った(直接ではないけれど)一人として、黒丸さんには悪いことをしたなと思います。既に故人なので、もはや謝りようもありませんが。
で、話は元に戻りますが。
では、戸田奈津子さんが黒丸さんほどに誠実であるかというと、また話は別かもしれません。もっとも、ひどい翻訳は戸田さんに限りません。それは珍しいことではなく、実際にいつも仕事で見ている技術文書などはとんでも誤訳のオンパレード。良くなったところもありますが、まだまだ凄い訳がいっぱいあるよ~ (笑。
戸田奈津子さんだけ責めてもしょうがないところがあると思います。