2006年07月29日
川俣晶の縁側過去形 本の虫感想編total 1640 count

モダンのクールダウン 稲葉振一郎 NTT出版

Written By: 川俣 晶連絡先

 うーん、困った。

 この本をどう受け止めるべきか、まるで消化できていません。

 最初に結論を言ってしまうと、非常に大ざっぱに言えば、この本の立っている立場は、私の立場と同じレベルにあると言えます。それゆえに、感想を述べることと、自分の考えを述べることが不可分の問題になってしまうのです。

 では、この本は何を書いたものかというと、たぶん東浩紀と大塚英志の主張がどう違っているのかを解き明かした上で、東浩紀が本当に到達すべきだった結論を想定し、それが大塚英志の主張と同じであることを示しているのだろう……と感じました。

 しかし、それはさておき、この本は東浩紀と大塚英志の主張が何であるかを分かりやすく噛み砕き、整理して提示するという機能性も持っていると感じます。特に、東浩紀の「動物化」という言葉の意味は、この本を読んでやっと分かったような気がします。そして、私の現在のインターネットの状況認識と大差ないらしい……ということも分かりました。これで、初めて東浩紀という人物を把握する取っ掛かりを得たような気がします。

 (もっとも、それ以前に東浩紀が分からないのは、東浩紀の本を読んでいなかったから……という理由はありそうです)

 もう1つ、歴史の話が出てくるのですが、既に知ることができない過去について考えることができるか……という問題も、実は1歴史好きとして持つ問題意識と接するところがあります。そういう話が出てきたのも、ちょっと嬉しい意外性です。

 さて、この本をどう受け止めるべきか悩ましい理由は、私が持っている問題意識と大差ない問題を似たような立場から論じていながら、そこに異論を差し挟む余地があるように見える……という印象があるためです。

 正しく知り得ないものについて考えることができるか……という問題について言えば、「知り得ないから考えることはできない」とするのはあまりにピュアな極論で、「解無し」「解不定」も考える対象として扱うことができるわけだし、現実的には「近似解」によって対処することも有効です。そういう意味で、東浩紀的な解釈とは、非現実的な極論、あるいは時代遅れの古典的論理遊びに過ぎず、論評に値しない……という解釈があり得るだろうか?という疑問を抱きましたが、現時点では何ら答の持ち合わせがありません。というか、こういう問題の立て方が適切かどうかというレベルから検証が必要でしょう。

余談 §

 しかし困ったなぁ。

 これまで、東浩紀や大塚英志や宮台真司の発言は、あくまで自分とは別世界で語られる他人事のレベルで読めたので、無責任に自由に感想を述べることができましたが。

 東浩紀や大塚英志や宮台真司の発言についての言説というレベルは、非常に乱暴にくくれば私と同じレベルということになってしまうのです。

更に余談・SFのポジショニング §

 p68のSFとファンタジーのマトリクスによる分類は非常に良いところを突いていますね。

 このマトリクスで、ジャンルSFとジャンルファンタジーの区別が存在しないことは、私がしばしば言ってしまう「ハードSF以外のSFに、SFとしての存在意義はない」というような主張の本質が示されているような気がします。ここでいうハードSFは、マトリクス上の本格SFにあたるものだと思います。

 更に言えば、現在はSFというジャンルそのものにさしたる意味を見出していません。

 そのあたりの私の気分も含め、このあたりの議論は非常にうまく状況や構造を説明していると感じました。

 それは、かなり非凡なレベルで的確な説明であって、それゆえに本書に対するうかつな感想を述べられないわけですね。

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