2006年08月25日
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「時をかける少女」がヒットする理由・大ざっぱな当座の解釈として

Written By: トーノZERO連絡先

 細田守監督の「時をかける少女」が(特にオタク層に)熱烈な支持者を得ている理由について、ごく大ざっぱに考えてみました。絵コンテや関連書籍を見る前なので、あくまで間違っている可能性を大きく留保しつつ、当面の考えとして書きます。

タイムリープの本質とは何か §

 この映画で主人公がタイムリープを行う理由は、イヤなこと、怖いことを回避する目的が多いと感じられます。

 この中には、一定以上に他人との深い関わりを持つような会話の回避も含まれます。

 告白されてタイムリープして無かったことにする……というのは、このようなタイプの行為と言えます。

 これらをまとめて「苦痛の回避」と称してみたいと思います。

 さて、2006年の今、社会には「苦痛の回避」が満ちあふれていると言えます。

 たとえば、相手と深く関わらない人間関係は珍しくもないし、インターネットの掲示板で匿名で書き込むことも一種の「苦痛の回避」です。それが限度を超えると、他人との関わりを拒否することになり、いわゆる「ひきこもり」という状態になります。

 主人公が行うタイムリープの本質とは、物理的に引きこもることなく、あらゆる苦痛を回避するための手段ということができます。

「ひきこもり」という病理はあまねく存在する §

 物理的に引きこもっているかどうかに関わらず、ひきこもりを指向する精神的な傾向は割と幅広く存在すると思います。まったく健全に社会生活を送っているかのように見える人でも、心の中にそのような傾向を持っていることは珍しくないと思います。

 それが、2006年の日本人の現状だと思います。

 しかし、ほとんどの場合、実際にひきこもることはできません。それは、様々な問題を引き起こして、自分も痛いからです。

 この映画が提示したタイムリープとは、この矛盾を完全に解決する手段となります。

 物理的にひきこもることなく、あらゆる苦痛を回避できるからです。

 その点で、この映画の前半は、多くの日本人が心の中に抱え込む矛盾を爽快に解決してみせるものであり、見ていて解放される映像であると見ることができます。

 ともかく理屈抜きで気持ちよいのです。

「苦痛の回避」は実は問題の解決ではない §

 しかし、「苦痛の回避」とは、苦痛を別の誰かに与えるか、あるいは未来の自分に先送りすることにしかなりません。つまり、問題を解決しません。

 ひきこもりに憧れたり、実際にひきこもっているとしても、多くの人々は、このような厳然たる事実に気付いているはずです。人間とはそれほどバカな生き物ではありません。

 そのようなリアリティを、この映画は「タイムリープの回数制限」と「別の被害者」の存在によって描きます。

 これらは、「ひきこもりばかりしていると、こんなに悪いことがあるぞ。だからやめろ」という高圧的な説教ではなく、「ひきこもる」という行為に対して感じる漠然とした不安感の具体化という形で観客に受容されているように思えます。

 つまり、この映画は、ひきこもり願望を肯定した上で、その願望につきまとう不安感も肯定しているのです。観客の感性の絶対肯定です。

苦痛を回避「しない」という結末 §

 主人公は最後に、自分の苦痛を回避するためではなく、他人の命を助けるためにタイムリープを使おうとします。しかし、既に残り回数はゼロであり、もう使えません。

 ここで、主人公の苦痛は、千昭のタイムリープによって回避されます。

 しかし、それによって千昭のタイムリープ回数は尽き、未来に帰れないという「苦痛」を受け入れねばならない状況に陥ります。

 この状況下で、主人公は決定的に「苦痛」の問題を「自分だけの問題」として処理できない状況に立たされます。

 つまり、主人公は初めて「自分の苦痛の回避」を実行できない状況に立たされます。それはタイムリープ回数の回数が尽きたという理由の他に、「他人の苦痛」の存在が強く実感されるようになったという理由がありそうです。もはや、自分さえ苦痛を回避できればよい……とは考えられなくなったのです。

 最終的に主人公は、他人を大切にするために自分に降りかかる「苦痛」は耐えられるという事実を体感的に発見します。千昭が見たかった絵を必ず未来に残す……という決意表明は、絵を守るためなら自分は苦痛に耐えられるという意志を示したものだと言えます。

 ここで、観客は希望を得ます。

 苦痛には耐えられそうにないから、ひきこもりたい……。しかし、それは上手く行かないだろう……という漠然とした思いは、大切な誰かのためなら、苦痛に耐えられるのだという結論によって救われます。

今まさに目の前にある問題に希望を与える映画 §

 この結論はまさに希望そのものです。

 正しく観客の「今」を肯定し、理解した上で、そこにわだかまる出口のない不安感に前向きの希望を与えること。

 これ以上に繰り返し見たいと思う映画があり得るでしょうか?

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