2007年01月13日
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『劇場版ロックマンエグゼ 光と闇の遺産』構造分析論・起承転結ではない優れた構成を明らかに!!

Written By: トーノ・ゼロ連絡先

 『劇場版ロックマンエグゼ 光と闇の遺産』に関する話題は終わりにすると宣言しましたか、1つだけ付け加えます。

 この映画の構造は、実は普通の起承転結ではない独特の形をしており、そしてそれは非常に成功していると考えます。それについて書きます。

起承転結とは §

 物語の典型的な構造である起承転結とは、(極めて大ざっぱかつ不正確に言えば)以下のような4つのパートから構成される構造を意味します。

  • 起 取り敢えず観客のハートを掴む
  • 承 登場する場所、人物、約束事などを説明する (ちょっと退屈)
  • 転 起と承で示した状況をひっくり返す
  • 結 転でねじれた状況を解消して決着を付ける

 この構造をこの映画に当てはめると以下のように考えられます。

  • 起 事情もよく分からないまま熱斗が巻き込まれるヒカリタダシプログラム争奪戦
  • 承 会議室での光祐一朗の説明、やって来る炎山とライカ
  • 転 光祐一朗の誘拐、残されたヒカリタダシプログラムの所在の判明
  • 結 ワイリー実験の島への突入と勝利

 しかし、この解釈は成立しません。なぜかといえば、「やって来る炎山とライカ」という出来事の前に、「光祐一朗の誘拐」という出来事が発生し、承と転が明確に分割できなくなってしまうからです。

時間軸による分析 §

 時間軸で上の問題を見てみましょう。

 上の分析で起とした部分は、本編開始からメイル達の消滅(廊下のシーンの手前)まで。結とした部分は、揚陸艇発進からエンディング開始までと考えてみましょう。

 それらの時間をトータルプレイ時間の表示を元にまとめたのが以下の表です。

出来事時刻差分
本編開始2:05
廊下19:5417:49
揚陸艇発進30:1510:21
エンディング開始47:3017:15

 これを見ると分かるとおり、起と結に相当する部分が約17分で、その中間には約10分しか残りません。

 起承転結は、それぞれが同程度の時間を配分されるのが基本的な形です。そこから逸脱するケースも珍しくはないとはいえ、さすがに承と転を合わせても起の時間に遙かに及ばないというのは不自然すぎます。

 この観点からも、この作品が起承転結の構造ではないと結論づけられます。

序破急という3段階構成 §

 おそらく、これは起承転結という4部構成ではなく序破急という3部構成なのでしょう。

 つまり、こういうことです。

  • 序 事情もよく分からないまま熱斗が巻き込まれるヒカリタダシプログラム争奪戦
  • 破 敵味方入り乱れて加速する様々な状況
  • 急 ワイリー実験の島への突入と勝利

 つまり、序において観客の心を掴み、破において主人公を取り巻く状況を拡大し、急において拡大された状況に決着を付けているわけです。

なぜ3段構成は4段構成に勝るのか? §

 普通の映画は、おそらく起承転結の4段構成が多いと思います。

 それにも関わらず、なぜこの映画は3段構成であり、しかもそれが成功しているのでしょうか?

 それを考えるには、この映画固有の条件をチェックする価値があると思います。

 この映画に固有の特異的な条件は以下の2つだと思います。

  • 上映時間が短い (50分程度でしかない)
  • 作品固有のお約束が多い (ペット、ネットナビ、電脳空間など)

 実は、この2つの条件は決定的に映画のあり方を拘束します。なぜなら、説明しなければならないお約束が多いにも関わらず、それを説明するだけの時間がどこにも無いからです。

 そこで、この映画で取られているのは、「あえてお約束を説明しない」という大胆な手法です。普通なら、そのようなやり方は観客を置いてきぼりにすることになり、好感は得られません。

 ところがこの映画では、主人公の熱斗すら状況を把握していない……という状況を通して、「分かっていない」という心理状態を主人公と観客が共有させています。それによって、観客は感情移入を可能としています。しかも、「分かっていない」ということを気にする時間的な余裕を与えないような、ジェットコースター的スピード感で事態は進行します。

 このジェットコースターは、熱斗の目の前で受付のお姉さんが消え、メイルちゃん達も消滅することで終了します。

 この段階に達してしまえば、観客にとって「私=熱斗」であり、消えたお姉さん達の運命から目が離せなくなります。

 そして、この瞬間こそが作品が通過すべき決定的なマイルストーンです。

 ここから作品と観客の関係は決定的に変化するのです。

 「あ~、つまんねぇの」と言いながら劇場を出てしまう危機は当面回避されたのです。

 とすれば、ここからが作品の本番です。作品が本当に見せたい設定、人物、状況などを繰り出していくことができます。多少は退屈な面があるかもしれませんが、もう大丈夫です。しかし、時間がないので、ともかく短い時間に全てまとめて出し切らねばなりません。

 これらの「素材」を出し切った時点で、この作品は2番目のマイルストーンを迎えます。この段階を通過することで、再び作品と観客の関係は決定的に変化するのです。つまり、観客は作品を見るために知っているべきことを全て知っている状態に達し、送り手と受け手は同じ場所に立って対等に向き合うことが可能となるのです。

 後は、あるべき結末に向けて、一直線に突き進むだけです。

結論 §

 以上をまとめると、2つのマイルストーンを経由する3段構成になるのが必然的であることが分かります。つまり、「上映時間が短い」「作品固有のお約束が多い」という2つの条件を上手く乗り切るための1つの必然的な構成ということができます。この2つの条件を共有しない映画とは異なる構成を取らねばならない必然性があったわけです。

感想・作品構造分析論的な傑作 §

 作品構造を分析して面白い作品というのは多くありません。

 新しい世代のジブリの映画などでは、起承転結を守っては観客に先を読まれてしまうので、あえてその構造を崩すということも行われているようですが、それはバランスを崩して居心地の悪さを感じさせるような気もします。

 しかし、この映画は、そういう居心地の悪さとは無縁です。あくまで、作品固有の条件を解決するために最適な構造を実現した結果として、特異的な作品に仕上がったのだと言えます。

 それにしても、見て面白いだけでなく、分析しても面白いとは、実に素晴らしい映画ですね!

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