「アナライザーは人間である森雪のやめてという命令を平然と無視してスカートめくりを続けている、と書いたわけだが。不満そうだね」
「やはり、やめてと言えば森雪よりもスターシャだろう」
「アナライザーにスカートをめくられた?」
「そういうわけではない」
「では、どういうシチュエーション?」
「やめて! 戦争をやめてください。イスカンダリウムが欲しければ差し上げます」
「新たなる旅立ちか! ってか、記憶だけでへろへろそんな台詞まで書いてるとはどこまでヤマトファンですか!」
「そこの、時代に風穴を開けたいと思っている編集者の君! ネットに未掲載のネタを山ほど持っている今こそ原稿を私に依頼するチャンスですよ!」
「中編小説ズォーダー伝のテスト原稿はもう書き上がってるぞ。ということ?」
「それはまた別の話だ。第3者がヤマト現象を外部から見て書くだけなら別にいいが、ヤマトのキャラを使った小説はいろいろ権利関係があるだろう。まあ、それを踏まえてもやってみたい度胸があれば原稿は出すぞ。でもそれはまた別件」
「まるでプロみたいな言い分だね」
「原稿料、印税で食っているという意味ではプロだよ」
「で、この件はどうするの?」
「ヤマトで、いやヤマトじゃなくてもいいけどさ、時代に風穴を開けて突き進めるような原稿を書いてあげよう。でも、ヤマトがいちばんいいかな。ヤマトの謎本とか、ヤマトの大百科じゃなくてさ。もっと先に進める本をさ」
「で、勝算は?」
「限りなくゼロに近いかな。今更ヤマトの本で採算が取れるとは思えない」
「って、あんたが言ってどうする」
「儲かると勘違いした出版社があたりさわりのない本を出そうと考えるかも知れないけど、現実を知った瞬間にキャンセルされる可能性が大きいしね」
「一生懸命修正して売れる本にしようとするかもしれないぞ」
「ははは。それで丸くなって売れないどころか、誰の心にも残らない本を作れってか? あくまで、ドリルミサイルのように読者の心に深く突き刺さる本でなければ意味がないだろう!」
「で、実際に出る確率はほとんどゼロとして、なぜそれでも書くの?」
「だって、万に1つの可能性に賭ける、それが男というものじゃないか」
「ほほう」
「本当にそういうシーンで、万に1つの可能性に賭けて名乗り出る編集者がいれば会ってみたいじゃないか」
「でも現実は限りなくゼロに近いね」
「待っていればネットに全部出てくる雰囲気だものね」
「でも実際は全部出てこないわけだ」
「うん、今のところ出てくる予定のない原稿もあって、それは当面死蔵される予定」
「それってボツ原稿?」
「それ以外の話だ」
「そんな原稿をなぜ書く?」
「おいらは、書かないと死んでしまう生き物だからだ」
「おいおい。そんな生き物があるかい!」
「それで、謎本でも大百科でもないというのは、どういう意味?」
「言っただろう。もっと先に進める本をさ」
「つまり、ポイントはそこなんだね」
「そうそう。僕らは未来に向かって進まなければならない」
「もっと具体的に言えば?」
「ガ○ダムをいくらリアルにしても、先には進めないがヤマトならそのままで行ける」
「ガ○ダムはせいぜい月ぐらいまでの世界だが、ヤマトは隣の銀河まで行けるということ?」
「そうじゃない。これは距離の問題ではない」
「というと?」
「僕らが死ぬまでに行ける最も遠い場所はどこかといえば、月さえも怪しい。そういう状況で距離を云々する意味があるのか」
「では、ヤマトのワープに意味がないと?」
「そうではない。問題は距離ではない。そうではなく、他人との距離感にあるわけだ」
「ほほう。他人と来ましたか」
「そうだ。我々は、心理的に距離の隔たりが大きい相手が待つ土地に出て行かざるを得ないわけだ。それが冒険であり、いかにして意思を疎通するかというコミュニケーション論の世界がそこにあるわけだ」
「物理的な距離ではないわけですな」
「そうだ。だから、似たような言葉を喋り、似たような価値観を持つ者達が集まった世界の話など、何の助けにもならないわけだ」
「とするとヤマトは?」
「たとえば、デスラーとは何者か。当初は敵であったが、味方になってくれるのはなぜか。それはデスラーが本質的に敵ではないからだ。デスラーの思いを的確に理解する者が側近にすらほどんといない独裁者であったから、ガミラスという不本意なシステムがデスラーを敵に仕立て上げたものの、本当にデスラーが欲しかったものは違うわけだ。本人も分かっていなかったかも知れない。では本当にデスラーが欲しかったものは何か。そういうことを考えられるからヤマトは面白い」
「つまり?」
「だから、デスラーは理解可能であり、コミュニケーション可能な相手だということ。そういう相手といかに上手く付き合うかで未来はいかようにも変わるのだ、というのが僕らの生きている現実の世界だということさ。相手が日本語を喋るとは限らないが、そもそも同じような価値観で判断するとも限らない」
「ということは?」
「翻訳こんにゃくは本質的に問題を解決しないわけだ」
「いくら多くの言語が理解できてもそれだけではダメだということね」
「たとえば、語学のラジオ講座などで使われる例文に、その言葉が使われる場所の慣習などの文化を紹介するものが含まれることも、そういうことだろう。言葉だけでなく、そのバックグラウンドも知らねば意思疎通はできない」
「しかも、特定の国の人だから常識があてはまるとも限らないしね」
「そうだ。となりに住んでいる純粋な日本人とすら、コミュニケーション可能という保証がない。それが僕らが乗り出すべき世界の本質だ」
「そうだね。坂本なんか古代に怒られてもまたやらかしてパンツ1丁」
「言って分かればパンツ1丁は回避できたはずだ」
「でも言葉では分からないわけだね」
「そういう意味ではコララインとボタンの魔女も同じだ。耳に心地よい言葉に身を委ねてしまうと目を奪われてしまう。それは、安易に隣国を攻めるべきという言説に賛成した若者が、いざ戦争になれば徴兵されて命を奪われるようなものだ」
「つまりどういうこと?」
「この場合、耳に心地よいことを言う者が味方とは限らないわけだ」
「地球連邦の大統領も耳に心地よいことを言ってアンドロメダを進宙させるけど、実際は大宇宙の平和を守るために血を流す度胸もない」
「アンドロメダも真田さんにぼろくそにこき下ろされる欠陥品だし」
「逆境に耐えられないのだ」
「でも、大統領の言葉を信じた古代達が裏切られてしまう」
「古代がガキだってことさ」
「結局、決め手になったいちばん重要なヒントはデスラーがくれるしね」
「地球の復興も現場で黙々と仕事をしている古代達ではなく、地球で権力争いしてる連中が美味しいところを持っていくわけだ。当然の成り行きだね」
「現場のトップである藤堂はそれを分かっているから、反乱をそそのかすわけだね。自分は反乱できないから古代達にさせる」
「計画的だよね。命令に説明はない」
「ある意味で、藤堂がいちばん悪い奴かも知れないぞ。嘘つきの策士だし」
「そうだね」
「でも、やはり土方を拾った後、藤堂と通信してお墨付きを貰って古代達がホッとしただろう、という部分はあるだろう」
「人間は一面では理解できない、ということですね」
「うむ」
「敵と味方のような簡単な色分けは、詐欺まがいの行為につけ込まれるだけだ。敵のふりをして斎藤を送り込んでくる藤堂のような奴もいるし、敵なのに助けてくれるデスラーのような奴もいるわけだ」
「斎藤にしても本当に味方だったのか、本当は古代とヤマトの監視役だったのではないか、という解釈もできる」
「一応、佐渡が紹介しているから、佐渡を裏切るようなことはしないだろうとは言えるが。佐渡の大人の判断と古代らの子供の判断が割れたら、どうなるか分からんよ」
「答えが分かっていたらそもそも生きる意味がないわけだしね」
「しかし、答えが分からないことが怖いから安易に答えを求める行為はダメだということだね」
「ありもしない正解を代価を払って教えられるだけだ。答えは、自分で自分の答えをつかみ取らねばならない。自力でね」
「自力で取りに来ることにこだわったスターシャのようにね」
「それで話がスターシャに戻ると」
「今日はこれにておひらき!」