「ヤマト完結編。一番泣ける部分はどこか」
「どこだろう? 沖田の復活? ヤマトの自爆?」
「好きなシーンは多いし、そもそもヤマト登場が泣けるのだが、それそれとする」
「登場するだけで泣けるの?」
「生きて任務についているヤマトが上下に煽られながら飛んでいるのはいいが、それは横に置く」
「置いちゃうのか」
「そうすると、やはり泣かせどころはハイパー放射ミサイルに乗組員がみんな倒れたヤマトで、勝手にスイッチが入って自動航行で帰還するところだ。このスイッチが入るところがいい。まるでヤマトに意志があるみたいだが、実は目撃者が誰もいない」
「みんな倒れた後か」
「そうだ。だから、ヤマトの意志はあくまで黒子なんだ。乗組員がみんな倒れた後でやっと出てくる」
「でも、それは本当に意志なんだろうか?」
「違うだろう」
「意志があるように見えるだけってことだね」
「そこがまた泣かせるところだ。実はヤマトには意志があったという話にならない。中央コンピュータにトチローの意識は宿ってないわけだ」
「なるほど」
「ここで話は変わるけどさ」
「うん」
「コンピュータの意志とはそもそもなんぞやという話になる」
「というと?」
「フィクションには意識を持ったコンピュータがいっぱい出てくる」
「その通りだ。ヤルッツェブラッキン!」
「いちばん印象に深いのはコロッサス(地球爆破作戦)だけどね」
「かなり渋い趣味だぞ。普通は鉄腕アトムとかだろう」
「しかし、それらは全て想像上のものだ」
「アトムを意識して作った人型ロボットも現物も、結局意識はないね」
「結局、凝り過ぎの動く人形でしかない」
「うん。本物のロボット好きならちょっと白けちゃう展開かもね」
「しかし、まるで意識があるみたいだと称えられたコンピュータもある」
「ええっ? ELIZA?」
「佐渡金山盛子、もといイライザちゃんではない」
「なに? GIVE ME 答ちゃん!」
「日によって機嫌が良かったり悪かったりして、まるで生きているみたいで可愛いと言われたのだ」
「へぇ。そんな素敵なコンピュータがあったのか」
「素敵なものか。要するに工業的には粗悪品ってことだ。立派な一流企業であればあるほど、そういう製品は作りたくないものだ。トラブルが多いとサポートが多忙すぎて死ぬからね。客がみんな好意的とは限らないのだ」
「なるほど」
「なんでも、一時期、某社のビデオデッキの品質がぐっと上がったのは、サポートの負荷軽減のためらしいぞ」
「そうか、工業製品の理想は、安定稼働してサポートに負担を掛けず、しかし保証期間が過ぎたら修理できないほど完全に壊れちゃうことなんだね」
「計画的に特定の時期に壊れることまで含めて、実は工業製品は安定していなければならない。不安定さは単なる予測不能の欠陥だ」
「それはどういうことだろう」
「だからさ。メイドロボはドジを踏まねばならないが、所有者にうざいと思われる手前で止めねばならない。それは品質の低さや不安定さでは達成できない」
「高度に計画的にドジを踏まないといけないわけだね」
「そうだね」
「でもさ。意外とロボットに友達を期待するような風潮も根強いんだぜ」
「ええっ?」
「うろおぼえだけど、むかしさ、さる若い女性SF作家の意見として、こんなのを見たことがある」
- 「どんなロボットが欲しいですか?」「友達になってくれるロボット」
「友達ってどうだろう……」
「ある意味で、そんな期待は割と多いのかもしれないが、これは別の側面を生む」
「というと?」
「イエスマンのロボットに友達としての演技を期待するぐらいなら、身近な人間をいっぱい友達にせんかい」
「現実的で冷めた意見だね」
「そうじゃないな。意志を持ったロボットに本当の夢を託すなら、まず作らないとならない。それは熱いハートがないとできないことだぜ」
「そうだね。そもそも1980年代の人工知能ブームが頓挫して以来、そんな素敵なシステムができたという話も無いしね」
「それっぽい身体ができただけだ。脳はまるでできていない」
「そうだね。身体は入れ物に過ぎず、脳こそが重要と思うならまだまだだね」
「現状はロボットができたと見せかけている茶番に過ぎない。でも脳ができないと友達は無理」
「そうだね」
「そこでヤマトの話に戻ろう」
「うん」
「現状、機械の意志は結局人間の感情移入で発生するものでしかない」
「発生するの?」
「見ている人間の内側にな」
「なるほど」
「だからさ。ヤマトの場合誰が見ているのかってことだ」
「あれ。誰も見てないよね? 全員倒れているんだから」
「観客が見ている」
「あっ」
「観客は意識があるようなと感じるが、ヤマトは最後の最後まで機械として運用されて死んでいく。実は、最後の最後に『まだ死にたくない』というように艦首だけ浮かび上がって咆吼して沈んでいくのだが、そこで意志のようなものが生きているヤマト乗組員に見えるかもしれないだけだ。アクエリアスの海岸でみんな見ていたかもしれない」
「そこがいいんだね」
「だからさ。安易に喋って意志を見せてしまわないのがいい」
「最後の最後までヤマトに意志があるのか無いのか分からないんだよね」
「そうさ。そこは観客の解釈の問題なんだ」
「そうか。見ている側の問題か」
「でも、機械の意志というのは本質的にそういうものなんだ。少なくとも現状ではね。『未来の二つの顔』の世界はまだ未到来だからね」