2011年01月06日
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「電波の盲点」という問題

Written By: 川俣 晶連絡先

「最近、思うことがある」

「なにを?」

「電波だよ」

「東京タワーから出ているアレだろ? それがどうしたの?」

「最近は、ありもしないことを思い込んだ人を『電波を受信している』と呼んだりするだろう?」

「それは物理現象としての電波とは何ら関係無いね」

「そうだ。まるで電波とは関係無いが、電波とはそういうものだと思われている」

「ははは。でも、なぜ今になってその話題なんだい?」

「これだ」

地デジの次より

「電波がいっぱいで、周波数帯をあける必要がある。デジタル化することにより、双方向などの新しいサービスに対応することが可能となる。というのが建前。画期的な新製品が無い中、人為的に消費喚起する意味があるんじゃないかと疑っている。だいぶ長くやっているから、終わったらインターネットテレビだな」

「これがどうしたんだい?」

「電波がいっぱいで、周波数帯をあける必要がある、というのは意外と建前ではない。というのは、これ昔からよくある話だからだ。むしろ、テレビの対応が遅すぎるぐらいだ」

「ええっ?」

「なんだ、テレビは帯域を食う割にやっとかよ、遅すぎるよという感じだ」

「どういうこと? ラジオだって別にデジタル化してないじゃん」

「この問題にデジタルは関係無い。それにラジオは許されてもテレビが許されない理由もある」

「それはどうして?」

「占有する帯域幅が、大幅に違うからだ」

「え、そうなの?」

「しかも、状況に応じて許される幅は大幅に変わる」

「どういう意味?」

「公共性が高いラジオ放送は許されても、もっと私的な通信では許されないとか。飛距離が短いFMでは広帯域を占有しても許されるが、遠くまで飛ぶ短波では許されないとかね」

「ええっ?」

「たとえばさ。占有する帯域幅を狭くするナローバンド化というのは、アマチュア無線の世界では1970年代から既に推進されていたんだよ。そのために、無線機を改造したり買い換えたりする出費は要求されてきたし、音質も落ちる。でも、それは混雑緩和のために意味があったんだ。だから、受け入れられた」

「混雑緩和? もっと別の周波数を開拓すればいいのじゃないの?」

「それはネット世代の発想だろう。IPv4が溢れたらIPv6にしてアドレスを増やせばいいとかね。でも電波は有限なんだ。そもそも何も生産しないアマチュアに割り当てられる周波数帯域は常に削られるリスクに晒されている。電波に対して有益な貢献をしていると常にアピールし続ける必要があるほどだ」

「そうか。総枠が増えないなら通信に使う帯域を狭くする必要がある訳か」

「しかも、超短波ではFM変調でも、短波ではSSBだったりする」

「SSB?」

「シングルサイドバンドだ。AMのキャリアを取り除いたのがDSB。しかし、サイドバンドは上下に2つあるから、1つだけ取り出したのがSSB。厳密にはUSBとLSBがある」

「へぇ」

「FMと比較してAMは占有帯域幅が圧倒的に少ないが、更にそれを絞り込んだのがSSBだ。同じ送信出力ならより遠くまで届くからSSBは好まれるという側面もあるが、帯域幅節約の効能もある。しかし、もっと帯域幅が狭くて済むのがCWつまり電信だ」

「電信って何?」

「モールス符号だよ。トンツーだよ」

「へぇ」

「AM放送のAMは占有帯域幅がかなり狭いからまあ許される。FM放送の電波は超短波で遠くまで飛ばないからまあ許される。でも、それらと比較してテレビは帯域を圧倒的に食い過ぎている」

「なぜ?」

「映像信号は情報量が多いからだ。それを圧縮もせず送信している。しかも、音声はFM変調で、これも帯域を食う」

「なるほど。今時の圧縮技術を前提とすると帯域を食い過ぎなのだね」

「まだ話は終わらない」

「ええっ?」

「今のアナログテレビは継ぎ足しを繰り返して成立している。たとえば、大本はモノラルのモノクロ放送だ。そこに、音声多重であるとか、カラー化の技術を上に積み足して互換性を維持しながら改良しているが、十分とは言えない。実はカラー化と言っても、ピクセルごとに自由な色が付くわけではないおおざっぱな面に色が載っているだけなんだ」

「それじゃ最先端の映像技術と勝負にならないじゃん」

「そうだ。勝負にならないから、ともかくどこかで全部入れ替える必要があったのも事実だろう」

「かなり厳しいね」

「そうさ、厳しいのだ。厳しいけど、テレビ業界が人気にあぐらをかいて、設備投資したくなかったのだ」

「なんか印象がかなり変わってきたぞ」

「『アマチュア無線の免許なんて持ってて当然だけど最近はマイコンが面白いかな。で、拾ってきた中古のテレビを改造して、4.5MHzの音声トラップを外して、マイコンにつなぐよ~』みたいな話が当たり前だった世代なら分かって当たり前の話だと思うけどね」

「でもさ。そういう技術の話は一般人なら分からないのも当然じゃないか?」

「その通り。当たり前だ。だから、ごめんなさいと謝って機器の入れ替えをお願いしなければならない」

「結局メーカーが儲かるだけ?」

「それも半分は真実だが、残り半分は真実ではないよ」

「なぜ?」

「まだ売れる商品がゴミになるんだ。しかも過渡期には両対応という商品も要求されて開発や流通のコストも上がる。特需でウハウハと経営者は思うかも知れないが、現場はかなり苦労しそうだ」

「それで地デジ需要が一段落したらインターネットテレビのような、もっと別の商品に行くと思う?」

「思う。なぜなら、基本的に有線であるインターネットテレビは帯域幅という問題から解放されて、無制限に多チャンネル化ができるからだ。しかも、チューナーというハードから解放されれば、ソフトの入れ替えだけでどんどん革新できる可能性が出てくる」

「それだけ」

「いや、まだまだあるぞ。地デジは離陸する前にコピー制限が無力化されて、既にコンテンツの本命媒体から脱落した。帯域の問題があるから推進取りやめとは行かないが、既に終わっている媒体だろう。次の模索はもう始まっているとみるべきだな」

「どうして、そうやってコピー制限ばかりきつくなるのかな」

「そりゃ、泥棒は悪いことだという社会的コンセンサスが成立していないからだ」

「だから、警察力を強化する方向に進むのだね」

「そうだ。コピー制限がきつくなって当然の権利が奪われているわけではない。実際は、先に戦線を布告したのは一般人側だ。カジュアルコピーのように一般人まで不正コピーに気軽に参入する時代だからね」

「そんな制約は嫌だと思うならどうしたらいい?」

「見なければいいのさ。テレビをね」

「ええっ?」

「テレビに価値がないとは言わないが、大多数のテレビ番組は見ても見なくてもさして変わりないと言えばそれもその通り。なら見ないのも選択のうちだろう」

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