「SPACE BATTLESHIP ヤマトは何回も繰り返して聞いているが聞き飽きない。たまに箸休めに他の音楽も聴くけどね」
「そんなに?」
「聴き疲れしにくいんだよ。飽きが来にくいんだよ」
「そうか」
「なので以下のように採点しよう」
「パーフェクトに満点だね」
「実はここで面白ことに気付いた」
「なに?」
「実はこれまで聞いたサントラの中で最高の1枚と思うのは『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』のサントラだ」
「交響組曲宇宙戦艦ヤマトじゃないの?」
「それは、厳密にはサントラじゃなくて新録音なので別扱いとする」
「そうか」
「そして、『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』のサントラとSPACE BATTLESHIP ヤマトのサントラは同じ水準で戦えるだけの奇跡の高水準であると気付いた」
「ほほう。凄く評価が高いね」
「しかし、これはまだ話の前座だ」
「どういう意味?」
「実はこの2枚は以下の特徴まで共通している」
- 偉大な先達のメロディーを取り込み、縦横無尽にアレンジして使いこなしている
「ええっ?」
「『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』ではJ.A.シーザー、SPACE BATTLESHIP ヤマトでは宮川泰だ」
「ええっ?」
「他人のメロディーを取り込み、更に上の世界を目指しているという点で、両者は同じ構造を持っているんだ」
「なるほど。面白い共通性だね」
「これが何を意味しているのかと言えば、人間の進歩は先人の蓄積の上にあるってことだ」
「けして、その人個人が過去を抜きして生み出しているわけではない、ということだね」
「そうだ。最近の風潮として、過去を知ろうとしない割に、自分たちは昔の人よりも賢いと主張したがる傾向があるが、もちろんそんなことはない」
「パソコンとかネットでどんな情報も即座に得られるから偉いってことなのかもよ」
「でも、それらのインフラは全て先人の蓄積の上に成立しているものだ」
「確かに」
「昔の人は貧弱なインフラを上手く使いこなして、成果を出してきた。インフラが整備された今と違って、むしろその方が賢いという評価すらありえるぞ」
更に感想 §
「聞き直してもっと分かってきた。更に以下の共通点がある」
- 二重旋律を多用している (後述)
- 別人作曲の素材がいいときはバックアップに徹する
- 技巧を凝らした長大曲がある
- サントラCDに主題歌を含まない
- 合唱隊を活用している
「二重旋律ってなんだい?」
「音楽には詳しくないので、説明の便宜上、ここで作った用語だ」
「どういうい意味?」
「同じテンポだがリズムが異なる主旋律と副旋律が存在していることを示す」
「それでどうなるの?」
「2つの旋律のリズムの差から、演奏されていない第3の旋律が聞こえるのだよ」
「へぇ」
「たとえば分かりやすい例が、今のポケモンのエンディング曲(心のファンファーレ)だ」
「どこがそうなの?」
「可愛いポケモンの楽隊の絵を背景に凡庸な歌として始まったように見せかけて終盤でボーカルと伴奏のリズムが乖離してしまうのだ。つまり、全く伴奏に合わない歌が流れるのだ」
「それは大胆だね」
「こういう状態が二重旋律の一種だ」
「なるほど」
「実は、この二重旋律というのは、1980年代以降の流行であるハウスとかぶる」
「そうか」
「のかもしれない」
「曖昧だな」
「語りがいい加減だから気をつけろよ」
「あい」
「で、このハウスへの影響はいろいろあるらしいが、より濃厚なのはロックではなくジャズらしいと感じる」
「えっ?」
「あとはディスコ・サウンドだな。まあおいらのいい加減な印象だがな」
「そうか、なるほど。分かったぞ。かつて不滅の宇宙戦艦ヤマトというディスコアレンジがあったヤマトだから、順当な発展形と言えるわけか」
「そもそも、おいらの世代はロックが何ら解放者としての意味を持たない世代だ」
「ええっ?」
「おいらの素朴な感想を言えば、ビートルズっていうのは年上の世代から『良い』と価値観を強制される嫌らしいものに過ぎない。いいか悪いから聞いてから決めるという自由さえ与えられない。良い物だという価値観を強制されて、いい思い出がない」
「そんなものなの?」
「『ほらいいだろう。いいって言え』という態度で来るのだからしょうがない。他の答えはなんら期待されていない。音楽の人それぞれの趣味がありえるという要素はなんら考慮されていない」
「ははは」
「結局、解放者と言えたのはハウスだ。ジャズ→ディスコ→ハウスという流れが明らかにロックではなしえなかった音楽的な解放を自分にもたらしてくれたわけだ」
「かなり屈折しているね」
「でも流れとしては順当だ」
違うところ §
「『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』のサントラとSPACE BATTLESHIP ヤマトのサントラには違うところもある」
「どこ?」
「前者は単体の音に頼る側面が大きいが、後者は複数の音による厚みに頼るところが大きい」
「どっちがいいの?」
「どちらとも言えない。独奏と合奏、それぞれに持ち味があって、甲乙を付けるようなものではない」
「なぜ2つのサントラには差があるの?」
「おそらく。時代と予算の差だ」
「予算の差で音が厚くなるのは何となく分かるけど、時代で何が変わるの?」
「技術の差だ。おそらく、簡単に鳴らせる音の数が違う。技術的な問題として」
「そこか」
「前者の時代はおそらくMIDIがまだ優勢だが、今はもうサンプリングがメインだろう」
「サンプリングになると、音の数は問題ではなくなるね」
「複数の音をまとめてサンプリングしてしまえばいいからね」
「それで何とかなるの」
「なる。なぜなら、二重旋律とはリムズが違ってもテンポは同じだからだ」
オマケ §
「よくある誤解なんだけどさ」
「なに?」
「音楽的な退屈さっていうのは、アイドルだから退屈で、大人っぽいから退屈しないってわけじゃない」
「どういうこと?」
「大人っぽい風貌のミュージシャンでも単調なリズムであくびが出ることもある。べたべたのアイドルの歌でも、リズムが凝っていて聞き飽きないこともある」
「へぇ」
「だから音楽の世界は見た目じゃないんだよ」
「聞いて聞いてやっと見えてくるものもあるわけだね」
「そうだ。そこで本当の中身の厚みというものが見えてくる。それを見て分かることは、本当に立場では決まらないということだ。女にきゃーきゃー言われるアイドルだから薄いとも限らないよ」
「なぜそこまで言い切れるんだい?」
「昔さ。友達の車に乗っているとき、音楽でもかけようかと言われたが何とおいらが納得してそれ掛けてと言ったのはどんな大人っぽいミュージシャンでもなくWinkだったのだ。べたべたのアイドルユニットだったのだ。でも、実際の曲のリズムが複雑で凝っていたのは、Winkだったのだ。それ以来、実際に聞くまで一切の論評は出せないと思ったよ」
「それがSMAPの木村拓哉を差別しない理由かな?」
「その理由の1つではある」
「別の理由もあるの?」
「あるぞ。たとえば、子供の頃に流行ったピンクレディー」
「お色気で売るアイドルユニットがどうしたの?」
「すげえ歌が上手いんだよ。ブームの後、ラジオで録音したピンクレディー特集を聞いていてそれが良く分かった」
「そうか。ラジオならお色気なんて見えないものね」
「露出した肌も見えないし、聞こえるのは声の表現力だけだよ」
「そうか」
「人気が落ちた後期の歌はあまり聴いてなかったけど、モンスターとか凄くノリが良くて良かったぞ」
「そうか」
「あるいは聖飢魔IIとかね。顔を塗りたくって悪魔だなんて子供じみたことをしているが、実は聞き応えがある。下手をすると凡庸な真面目なミュージシャンよりもね」
「そういう発見が君を世間の標準と違うところに連れて行くわけだね」
「でも、アイドルと言うだけで馬鹿にするよりはマシだろ?」
「周囲から浮いちゃうけどね」
「よし、某教祖より先に浮遊に成功した男として売りだそう」
「なんか違う」