「前に某イベントでアカマイの人と名刺を交換した。そのあと、アカマイからのDMメールがたまに来るようになった」
「どんな感じで?」
「2月頃にはこんなSubjectのメールが来ていた」
「ハクティビスト?」
「耳慣れない言葉だが、そういう言葉はある」
「だけどさ。身を守るってことは、犯罪者扱いじゃない。でも、ハッカーは犯罪者じゃなくて、クラッカーが犯罪者なんだろ?」
「はたしてそうなんだろうか?」
「えっ?」
「ハッカーを自称するA氏が自らの信念に基づき、正当な行動を行ったとしよう。彼の意識の中でA氏自身は犯罪者では無い。守るべき規範を適切に遵守する模範的で善良な人間だ」
「ルールを守るならそうだね」
「しかし、行動の影響を受け止めるB氏はA氏のルールではなくB氏のルールで物事を解釈する。これは当たり前だ。当然の権利として認められる範囲を逸脱して、自らの活動を妨害する相手は全て犯罪者と見なされる」
「でもA氏はルールを守っているんだろ?」
「A氏のルールをな」
「ちょっと待てよ」
「だからさ。私は犯罪者ではありませんという自己アピールはしばしば意味を持たない。なぜなら、犯罪であるか否かは、基準が多様であり、しばしば揺れる。最終的にそれをジャッジするのは法治国家においては司法となる。だから、実は行動の正しさは自分では決定できない」
「でもさ。司法が間違っていたらどうするの?」
「抗議することはできる。ルールをひっくり返すこともできる。しかし、それには社会的な賛同が必要であり、個人の信念だけではひっくり返せない」
「じゃあ、君はどう思うんだい?」
「おそらく、ハッカーの正義とは、かなりの割合で社会的な意味での犯罪行為を含むのだろう」
「えー」
「だから。ハッカーは犯罪者ではない、というハッカー自身の言葉にはほとんど意味がない」
「それなんだよ」
「それゆえに、WikiPediaに書いてある以下のような言葉にもほとんど意味は無い」
また、「ハッカー」であることを声高に名乗るものほど「クラッカー」である可能性が高いとも語っている。
「そのような発言がハッカー側から出ても、ハッカーが迷惑行為を行っているか否かとは直接関係ないってことだね」
「そうだ。そして、明らかに迷惑な行為が行われて惨事が起きたらこう言えばいい。『それをやったのはハッカーじゃない。クラッカーだ』」
「便利で都合のいい二枚舌ってことだね」
「もっとも、この手の二枚舌は珍しくも無いよくある典型だけどね」
「たとえば?」
「1980年代後期に起こったM君による事件など、『あれは本当のオタクではない』といった意見がよくあったよ。あれはオタクいうにはぬるすぎるとかね。でも、ぬるすぎるオタクなんて掃いて捨てるほどいる。彼が特別なんてことはなかった」
「自分たちの問題として真面目に受け止めなかったということだね」
「だからさ。分かってる人は受け止めてるわけ。『おたく』の語を産み出した漫画ブリッコの編集長だった大塚英志はM君の裁判を最後まで通っているわけ。けして、彼は関係ないとは思ってないわけだ」
とはいえ §
「じゃあ、マスコミが犯罪者をハッカーと呼んでいるのは正しいわけだね?」
「それはまた別の問題だ。マスコミとは、しばしば不適切かつ不正確な情報を流す存在だ。彼らが流すハッカー象が適切かといえば、またそれは別の問題だ」
「マスコミには厳しいね」
「日経本紙の1面に堂々と掲載された誤報を確認するために無駄な時間を使ったことだってあるんだぜ」
「ははは。痛い経験だね」
「ましてネットの情報の信頼性はそれ以下だ。世の中、当てにならないことだらけと思って間違いないよ」
「生きにくい世の中になったね」
「なに、今に始まったことじゃない」