「宮崎駿は語る必要もないし、もはや語るべきでもないと思った。なので、特集記事に何もコメントはない。単にサボイアS21は昔作ったよ、ということで写真1枚乗せるだけでおしまい」
「赤くないぞ」
「そうだね」
「説明書とも設定とも違うぞ」
「そうだね」
「説明も設定も無視して好き勝手に塗って、しかも黒って、今の君と同じじゃないか」
「結果としてそうなるね。でも、この当時はエアブラシで塗ってたよ」
「そこは違うのか」
「ちなみに塗り分けが直線なのは、マスキングテープの都合」
「わははは。身も蓋もない夢のない説明だ」
飛ぶ理由 §
「結局、この連載のために高い雑誌を1冊買ったようなものだな」
「それで?」
「今月は出費が多すぎるので、実は買うかどうか迷った」
「なぜ買ったの?」
「アメリカの要塞がツボだったから」
「何がツボなの?」
「テーブルの上に置いて安定しないデザインだから」
「は?」
「フネってさ。実はテーブルの上に置いて安定するとは限らないの」
「飛行機もだろ?」
「飛行機は着陸姿勢にするとテーブルの上で安定するの」
「えー」
「でもフネは安定しないの。たとえば、ヨットとか、底部に大きなヒレが突きだしていて、テーブルには水平に置くことができないわけ」
「それってまさか」
「そう。この要塞は明確にテーブルの上に置けないデザインだから。空中に浮かんでいるしかないデザインだから」
「えー」
「しかも、揚力はケージに入れたアダムスキー型UFOで発生。まさにいい具合に現実をかきまぜたファンタジーだよ」
「そこがいいのかよ」
「他には、主役のメカも、最初のよく見えない絵のいい感じでうならされ、次の見開きでもう1回うならされて良い感じ。この背の低い感じが実はこれもツボ。子供っぽい特撮アニメのメカはゴツゴツと出っ張りがありすぎるけど、これは背が低くてスマート。いいね。他にメカに生物的な要素があるのもいいぞ」
「それだけ?」
「いいや。最後に出てくる拘束されたペガサスと巨大なタイヤの地上車のデザインもいいね。特にいいのが女の子がさりげなくいること」
「なぜいいの?」
「この超ファンタジー空間ではたいていのもののサイズが良く分からない。しかし、分かりやすい対比物(つまり女の子)があることで、このタイヤはとても大きいことが凄く良く分かってインパクトがある」
「じゃあ、これでいいの?」
「雑誌全体としては言いたいこともあるが、この記事はこれでいいぞ。いい具合に刺激的であった」
アート側? §
「全く個人的な感想に過ぎないが」
「なんだよ。前置きを置いたりして」
「小林さんは、片足を既にアート側に置いているような気がするな。つまり、表現としてのページが成立していると思うわけだ」
「どういう意味?」
「自分の頭の中からイメージを取り出しても、実はあまり大したものは出てこない。でもそこを勘違いして『俺のイメージ通りのデザイン』を相手に見せようとする人もいる。けど、それではあまり大きなインパクトは与えられない。この記事はそういう作り方ではなく、相手に与えるインパクトの大きさから逆算してデザインが起こされているように思えるね。だから実は主役は受け手なのかも。設定でも作例でもないわけで」
「それはモデラーの発想ではなくアーティストの発想ということなのだね」
「そう。モデラーとはモデルを作る人で、モデルとは模倣するもの。しかし、ここまで来てしまうと、もう模倣とは違う別のものになっているわけだ」
「なるほど」
「おっと最後にひと言忘れていた」
「なんだよ」
「文章で空中戦艦大和も出てくる。今回の主役メカではないが、出番がフォローされている。そこもぬかりない」
「あり得ないぐらい完璧な記事じゃないか」
次号 §
「フォークランド特集か。いいじゃないか、シュペル・エタンダール、エグゾゼ、ハリアー。アメリカ主導の戦争ではなかなか目立ってこない兵器が主力になって大活躍。意外と興味はあるぜ。目の付け所はいいと思う」
「まさか」
「それなりに力を付けたアルゼンチンと、没落しつつある大帝国の戦争。対岸の火事としては最高だったね」
「おいおい」
オマケ §
「これでオッケー、と言ってしまった瞬間に、ヤマト2199の方法論とは少しずれてしまうような気もするがまあいいか」
「いいのかよ」
「だからさ。こちらも既に説明とか設定通りに作らない人だからさ」
「ひ~。じゃあ、オフィシャル設定の存在意義って……」
「こう作れば取りあえずできますよ、というビギナー向けの目安?」
「ぎゃふん」