「特撮博物館はどうせ混むから夏休みが終わった9月に入ってから行こうと思っていた」
「そうか」
「でもさ。同案多数であることがあとで分かった」
「ひ~」
「ともかく、混まない時間を狙うということで、平日の午前中を狙った」
「無理をして時間を作ったのだね?」
「そうだ。でも無駄であった」
「なぜ?」
「チケット売り場の行列がないだけで、結局中は混んでいて全部見られなかった」
「ぎゃふん」
庵野秀明特撮博物館 §
「展示されている遺物の凄み、これは想像を絶する」
「そんなに?」
「分からない遺物も多いよ、マニアじゃないから。でも分かるものだけでも、凄さに絶句できる」
「何があるの?」
「記憶に残るものだけ列挙する。全部本物のプロップ」
- マイティ号
- ピブリダー
- エキゾスカウト
- バッカスIII世
- わだつみ
- おおくに
- 轟天号
- 地球防衛艦轟天
- ウルトラホーク1号
- マットアロー1号2号マットジャイロ
- スカイホエール
- コンドル1号
- 隼号
- アルファ号
- 青島要塞爆撃命令のSL
「分からないものだらけだ。そもそも轟天号と地球防衛艦轟天って違うものなのか?」
「ばっかもーん、轟天号は海底軍艦、地球防衛艦轟天は惑星大戦争だ」
「どこが違うの?」
「海底軍艦はキ○ガイ艦長神宮司だが、惑星大戦争はリボルバー式艦載機発進口だ」
「分からない……」
「帰りに電車でもらった紙を見ているとどこかにケルマデックまであったらしいが、後の祭りだ」
「ケルマデックって?」
「ばっかもーん。日本沈没の深海潜水艇だ」
「じゃあ、わだつみは?」
「ばっかもーん。日本沈没の深海潜水艇だ」
「違いが分からない……」
「他に着ぐるみの面も山ほどあったし。凄い量だ。ザボーガーまであったし、ジャンボーグAだけでなく、ジャンボーグ9まで」
「へー。ところで、青島要塞爆撃命令ってなんだ? なぜSLなんだ? 鉄道映画には思えないぞ」
「第1次大戦時代をモデルにした映画だな。水上機母艦若宮から発進した航空機で列車を爆撃する。その牽引SLのプロップだ」
「なんでそんな映画まで知ってるんだよ」
「いやー。子供の頃にテレビで見たことあるので」
「ひ~」
「しかし、そんな映画の今の今まで忘れていたようなSLまで置いてあるとは凄い中身だと思う」
「知ってる君も凄いよ」
「すごかないよ」
「じゃあ、これは肯定的に見て良いの?」
「そこは微妙だなあ」
「なぜ?」
「一応の目玉の巨神兵東京にあらわるがつまらない」
「えー」
「演出力もあって技術も高いのだが、中身がない。おそらく、第2世代特撮の特徴そのものだと思う」
「なぜ中身がないの?」
「模倣者は表層しか受け継げないからかもしれない」
「うーむ」
「マイティジャックの扱いが大きいのは良かった。あれはあれでいいと思う。ホーク1号の周囲をウルトラメカが囲む展示も良かった。あれもあれでいいと思う。スカイホエールがどーんと展示してあるのも良かったと思う。でも、結局技術論に終始していて、技術展ではあっても美術展にはなっていないような気がした」
「どこがポイントなの?」
「人だな」
「どういう意味で?」
「展示の中にあった海底軍艦の資料に、甲板上の人がちゃんと描いてあった。しかし、巨神兵東京にあらわるには語り手の女と弟が出てくるにもかかわらず、映像の中に出てこない。状況として東京が滅んで人類も滅んでいるはずなのに、延々と語り続けて緊張感が無い。どこかで傍観者なのだ」
「人か」
「だからさ。特撮というのはどんなちゃちな特撮でも、『あ、あれはなんだ』って驚く俳優がいれば生きてくるわけ。逆にどんなに凝った特撮でも人を欠いてしまうと嘘くさくなってしまうわけ」
「ひ~」
「最後にいろいろな製品をまとめて展示するケースがあったけど、あれも凄かったね。シュピーゲルもいるし、ライダーもいるし、ワンセブンもいるし、驚いたことにスペース1999のイーグルまでいたよ」
「かなり幅広いね」
「キカイダーもいたし。かなりの幅なのだが、全体としてあまりメッセージ性が感じられなかったのは残念だ」
MATの仲間と車に乗って §
「MATじゃねえ! TACだろ!」
「それはそれとして、子供の頃はマットジャイロがいちばん好きで、マットジャイロ>マットアロー1号>マットアロー2号の順だった」
「それで?」
「プロップを見ると2号がいちばん良い」
「なぜ?」
「機体のサイズが小さくて、人が大きくコクピット内に見えるから」
「結局人か!」
「今は順番が変わったけれど、結局ウルトラホーク1号が最強という意見は変わらないな」
「ぎゃふん」
常設展 §
「同じチケットで常設展が見られるので、そのまま常設展も見てきた」
「それで?」
「オノサト・トシノブの絵がけっこう印象的だったな。丸と直線だけ。あとは色で勝負という作品群だ」
「どこがいいの?」
「結局丸も線も単純であり、色で勝負ということになる。色使いはけっこう良い刺激になった」
「それだけ?」
「入ってすぐ天井から釣ってあった門も良かったね。実は上下シンメトリーで3Fから見ると上向きの門が見える。透けて見えるから、水面に反射しているようにも見える」
「刺激があったわけだね」
「こっちは美術展だった」
戦い終わって日が暮れて §
「結局、隣接する公園を歩こうかと思ったが、そんな体力的時間的余裕は残らなかった」
「凄い量だったわけだね」
「これで現代美術館全ての展示を見たわけではない」
「ひ~」