「実は複数のケースで、オタク関連のとても様々な人から、成長物語が理解できていない、あるいは、それをありきたりでつまらないとする意見を聞いている」
「ファンから?」
「ファンから聞いていることもあるし、アニメを作る側の人から聞くこともあるし、ライターの人の発言として誌上の文字として読んだこともある。今まで良く分からなかったが、最近やっとつながってきた」
「成長物語とはなんだい?」
「子供が少しだけでも大人になる話だ」
「ありきたりの成長物語は避けるべきではないのかい?」
「あのね。子供とか大人は社会が定義するものであり、表現方法の工夫はある程度有るけれど、基本的には全部同じなの。そういう意味で全ての成長物語は全部ありきたり。ありきたりであることを問題にしたらそもそも成長物語が成立しないわけ」
「じゃあ、成長物語は壊滅?」
「と思いきや、未だに成長物語は作り続けられていて、それは一定の支持を得られ続けている。一般の映画の世界ではね」
「つまり、なんだい?」
「オタクは成長物語との相性がとことん悪い。オタクは成長物語を解釈できない場合も多いし、成長物語は評価しない傾向も大きい」
「一例としては?」
「たとえば今川版鉄人28号。主人公の少年は鉄人28号というスーパーパワーを手にするが、太平洋戦争の深い闇という現実に直面すると何もできない。万能感を持った子供は、子供のままではいられないんだ。これは凄くいい描写で好きなんだけどさ。実は正反対の否定的な意見をプロが述べているのをアニメ雑誌で見て驚いたことがある。これも成長物語忌避の一種だと言えるだろう」
「他には?」
「我が青春のアルカディアもそう。あれは良く出来た映画なのだが、基本的にいきなり負けるシーンから入る敗北と挫折の映画なのだ。非常によくできているが支持されない。まあ当然だ。ついでに言えば、999のエターナルファンタジーも同じ。あれも痛烈な負け映画。負けを噛みしめることは大人への成長のステップだが、続きが作れないぐらい支持されなかった」
「なぜ成長物語は忌避されねばならないんだい?」
「それはね。オタクという概念はメインカルチャーに対するカウンターカルチャーで、どちらを選択するのかという選択の問題に還元されると彼らは考えているからだ。つまり、オタク文化はメインカルチャーと同程度に成熟しており、より新しく適切な文化であると考えられている。一方でメインカルチャー側から見るとオタクとは子供であり、大人になることが期待されている」
「成熟していないってことだね」
「そうだ。オタク=子供なので、期待されるのは成長だ」
「でも、オタク自身は既に成熟しているのだね?」
「自分達は既に成熟していて、大人として振る舞っていると思っている。ただ単に違う価値観に沿って行動しているだけだと思っている。必要なことは、理解されることだけだと思っている」
「思っている、と3回も繰り返した理由はなに?」
「単に彼らがそう思っているだけだから。外部から見るとやはり子供に見える」
「ひ~」
「従って、オタクは常に社会から『大人になれ』という成長圧力を受けることになるが、彼らは成長することができない。彼らの信奉する思想が成長を否定するからだ。このギャップで最も問題になるのが成長物語だ。成長という概念が除去されたオタク思想において、これは解釈不能になる。見ても感情移入できない。また同じような話が来たとしか思わない」
「ちょっと待てよ。いつまでも大人にならない子供達が多いから、成長物語にはかくあって欲しいと言う理想が投影されて支持が得られるわけだね。しかし、オタクにとっての理想とは、成長せずにありのままの自分が社会から肯定されることなんだね?」
「そうだ。だから永久にすれ違い続ける」
「で、永久にすれ違い続けると何が起こるんだい?」
「宗教戦争だな。殲滅するまで止まれないジェノサイド」
「ひ~」
「というわけで、ともかく成長物語としてのカラーが強いアニメや漫画は本質的にオタクに受けない傾向が強い」
「でも、挫折してパワーアップするヒーローは多いよ」
「だからね。挫折してもっと大きな戦闘力を手に入れるパターンは大人にならないからだ」
「は?」
「解決できない問題に直面して自分の矮小さを思い知るのが大人になることだ。より大きな力を手に入れて自我を肥大させてもそれは成長と呼ぶに値しない」
ならばヤマト2199は §
「そのような文脈で見ると、ヤマト2199は営業的な要請により、成長物語としての要素をどうしても切り捨てねばならない」
「それは具体的にどういう意味だい?」
「以下の条件を満たさねばならない」
- ほぼ全ての登場人物は完成された大人として登場し、完成された大人として退場する
- 挫折を経験したキャラクターは挫折をうやむやにされる (挫折を受け止めて成長しない)
- 非常に大きな挫折を経験したキャラクターはすぐ死ぬ (挫折を受け止めて成長しない)
「つまりなんだい?」
「沖田から古代へと続く2世代のドラマは必然的に成立しない。古代は最初から完成された大人として登場し、沖田の意志を受け継いだりはしない」
「挫折を経験したキャラクターは挫折をうやむやにされるって?」
「衝撃の告白を聞かされた島は、挫折を経験するのだが、その後はUX01の魚雷が当たってうやむやにされる」
「非常に大きな挫折を経験したキャラクターはすぐ死ぬって?」
「ガミラスに帰れなくなったデスラーも、3000隻が30隻に減ったゲールも、ヒスの連絡でヤマトを取り逃がしたドメルも結局すぐ死んでしまう。反乱に失敗した伊東もね」
「ひ~」
「薮は挫折しそうに見えて、フラーケンに拾われてうやむやにされたし」
「ひ~」
「挫折したかに見えた山本は古代に取り入って挫折はうやむやにされるし」
「ひ~」
「沖田は天岩戸が開いて挫折しないし。最後は死ぬけど魂がコスモリバースに入って消えないし」
「ひ~」
「だから必然的にガミラスの戦いの後半は中2病展開になる。あそこを真面目にやると古代と雪が挫折せざるを得ないのだが、それは回避される」
「ひ~」
「ビーメラ星では原住民が死んでいるので深刻な問題にまで発展しない」
「虫が出るよ」
「でも、悩まないアナライザーに排除されてしまう」
「アナライザーも成長の機会を奪われるわけだね」
その必然性として §
「その必然性として、ヤマト2199にはぽっかりとある種の要素が欠落することになり、コレジャナイ感が出て一部のファンが怒り出す。でもそれは、今どきのオタク相手に見て貰おうとすれば回避できない必然であって、その行為が間違っているとまでは言えない」
「それで?」
「だからこれも同じ文脈で解釈できると気付いたのだよ」
ID: 20140404085540
Subject: なぜセレステラは演説原稿を書くのか、なぜセレステラは死ぬのか
Keyword: 【▲→トーノZERO→アニメ感想→宇宙戦艦ヤマト】
URL: http://mag.autumn.org/Content.modf?id=20140404085540
名前: 3gou
本文:
トーノ・ゼロさま
お久しぶりです。
WOWOWでのヤマト2199劇場公開版、いいですね。
イベントとしての2199の追体験としては、BDやTV放映版よりも劇場公開版の方が盛り上がります。
ヤマト2199において、たたまれてない風呂敷のひとつが地球側の先制攻撃の件ですね。
当事者である芹沢や沖田は何も語っていないし、山崎の証言も命令を聞いたことでしかありません。
ヤマトのドラマとしては、島の気持ちの整理がつき、後にガミラスとの和解がはかられるならそれ以上の説明は必要ないとは言えますが視聴者としてモヤモヤは残ります。あえて考えさせるようにしたのかもしれませんね。
デスラーについても同じですね。そのまま見ればとても彼の理想を納得はできませんが、むらかわみちおさんは理解できる旨を書かれていますしまたその行為を理解しようと努めることが相互理解の一歩だよということかもしれません。
女性同士ならパフェで理解しあえるのかもしれませんがねw
どうもオタクという人種は過剰に説明を求めていけませんね。
説明されたからってお話が面白く訳ではないのですから
それではまた
「つまりなんだい?」
「地球側先制攻撃の件をより深く突っ込んでいくと、誰かが挫折するような展開にならざるを得ないのだが、それは回避すべき成長物語と表裏一体になってしまう。それを回避するには即座に当該キャラを殺すしかないが、殺せない主要キャラが関わってしまったのだ」
「分かった。山崎は徳川の後任になる以上、ここで死なせる訳には行かないわけだね」
「そうだ。それにデスラーの件も、これ以上突っ込むと開けてはいけない箱を開けてしまいそうな怖さもあるぞ」
「だからなんだい?」
「ヤマト2199には以外とタブーが多い。スカートめくりを封じられたアナライザーを始め、禁じ手でがんじがらめになっているような気がする。だからこそ、全ての禁じ手を使った裏ヤマト2199はあり得るだろうな」
「どんなヤマト2199だよ」
「だからさ。アナライザーがスカートをめくって、ヤマトはガミラスを爆撃して滅ぼしてくるヤマト2199だよ。古代が銃を投げて雪は泣いちゃう」
「ノランは古代と決闘しちゃうヤマトだね」
「そして、波動エンジンの点火にも失敗する」