「話の都合上、ネタバレ禁止を解除する」
「都合とはなんだい?」
「方舟の分析を少々行うが、作品内容や具体的な感想に言及するのは不可避だからだ」
「それは今やらないといけないことなのか?」
「その通りだ」
「では始めてくれ」
「その前にどうしても1本釘を刺しておかねばならない」
「どんな釘だい?」
「自分の感想や評価はあくまで自分という人間に属するものであり、客観評価ではない。主観評価だ。よく誤解する人がいるのだが、自分がXXは良くないと思ったとしても、それはXXは悪いという告発ではないのだ。あくまで個人的な感想であり、XXが良いと思った人は良かったという感想に誇りを持って良い。見て良かったというのは事実であり、それは誰にも否定できない属人的な特徴なのだ。良かったと思ったら良かったと言うべきなのだ。無理をして周囲に迎合しても嘘つきになるだけだ」
「映画というものは、見た人それぞれなのだね」
「そうだ。感想は人それぞれだ」
「では、XXは良かったと思う人の気分が気分を害する可能性があるのに、なぜ君はXXは良くないと言ってしまうのかい?」
「そりゃ、XXを見て良くないと思った自分の感想はそれが事実なのであって、迎合して【良かったですね】と言ってしまうとそれも嘘つきになってしまうからさ」
「嘘つきは良くないわけだね」
ヤマトの謎 §
「最近のヤマトは何かが変化した感じを受けていたが、具体的に何が変化したのかが見えてきた気がする」
「それはなんだい?」
「2014年12月のヤマトーク登壇者は以下の条件を満たしていると感じた」
- 方舟がどうであろうとも自分のヤマトを持っていて、軸が揺るがない
- 集客できる人気や知名度を持つ
- 次世代のヤマトの中核を担える人材
- ヤマトークレベルのイベントに呼べる
「自分のヤマトってどういうことだい?」
「うん。いい質問だ。今回時間を限定して加藤さんと麻宮さんの絵の本物がロビーに展示され、特に加藤さんのサーベラーが大人気だったけれど、実は本当に凄かったのは麻宮さんの方」
「なぜ」
「ヤマトとメガルーダが描かれているのだが、劇中のメガルーダとはかなり違うものが描かれていた。特に【無様過ぎる】と思って嫌だった前部の五連装砲塔がほとんど見えないぐらいの感じで描かれていた。実は凄く【自分の解釈】というものが入っている」
「なんて破壊力のある絵なんだ」
「考えてみると、実は麻宮さんって設定と違う甲板色のヤマトなども描いているので、昔からそうだといえばそうなんだろうけどね」
「ひ~」
メガルーダの問題 §
「というわけで、メガルーダの問題にメスを入れることにしよう。メガルーダについて、凄くかっこいい、絶対模型が欲しいと思っている人もいるが、それはそれで良い。感想は人それぞれだ」
「君の個人的な感想は?」
「死ぬほど格好悪い。見るに値しない」
「酷い感想だね」
「そうさ。酷い感想だ」
「どこが悪いの?」
「もともとメダルーザはヤマト2でもトップクラスの格好悪いダメメカであったけれど、メガルーダは輪を掛けて酷い。特に良くないのが前部の5連装砲。あれはもう完全に軍艦らしいシルエットを崩している。大きすぎるのだ」
「じゃあ、けなして終わりなのか?」
「まさか。それでは何の芸も無い。実は【なぜそうなのか】という側面が見えてきた。実は、このバランスは軍艦というよりも、四連装の機銃を持つ対空戦車に近いバランスなのだ」
「戦車?」
「そう。戦車。それがキーワード」
「どういう意味だい?」
「実は、そう思って見ると正面装甲を誇ったバンデベルのゼルグードも、そもそも【正面装甲】が戦車っぽい用語なのだ。戦艦は通常正面装甲だけを強化したりはしない」
「むむ?」
「実はそう思って見ると、冒頭バンデベルはバンデベル将軍と呼ばれていることに気づいた。将軍は陸軍で使われることが多い用語。海軍なら提督だよ」
「つまりなんだい?」
「実はこの映画、暗に陸戦がバックボーンにあり、海戦を前提に見るとかなりおかしく見える。まあ、そのあたりの事情は銀英伝でも同じなのだけどね」
「分かった。方舟を理解する第1のキーワードは【陸戦】だね」
「そう。【空戦】でも【海戦】でもない。そう思えば【海戦】のみならず【空戦】の描写もイマイチ出来が良くない理由が見えてくる」
スタートレックの問題 §
「実は意味が分からないシーンが1つあった」
「それはなんだい?」
「ガトランティス艦から、ビームではない光点がヤマトに飛んでいく戦闘」
「それが分かったのかい?」
「フォトン・トーピード(光子魚雷)なんだよ」
「は?」
「エンタープライズが装備してるだろ」
「スタートレックかよ」
「この映画はスタートレックなんだと思って見て始めて気づいたよ」
「なんてこった」
「ちなみに、重力が大きくなる天体の近くではワープできないという制約がヤマト世界にもあったような気がするが、欧米の特撮には無かったりする。そういう意味でも、いきなり天体の間近でワープしちゃうヤマトは、あまりヤマトっぽく見えなかった。でも基本がスタートレックなら許されるのだろう」
「こんなヤマト認められるかよ! こんなスタートレックなら認められるぜ」
「それは台詞が違う」
なぜ構造が壊れているのか §
「この映画は全体的に構造が壊れている。伏線として回収されない描写は多いし、そもそも、TVシリーズで使ったアイデアの使い回しが多すぎる。冒頭あんなに苦しんでいる斎藤が出てきて、土方が信じて待っているにも関わらず、ヤマト乗組員に【一刻も早く地球に戻らねば】と焦る乗組員が1人もいない。それどころか、用も無いのに古代は沖田を訪問して、沖田は優雅に蓄音機でレコードを聴いている。島は両手に花で写真撮影。地球の惨状を考えれば殴りたくなる状況だ。真面目にやれよ!」
「でも、それが結論ではないのだろう?」
「そうだ。実はなぜ物語としての構造が壊れているのか、その理由がやっと分かった」
「それはなんだい?」
「これはね。ヤマト2199ではなくバーガー物語なのだよ」
「は?」
「バーガー個人の物語として解釈した時だけ、映画として筋の通った骨格が浮かび上がってくるのだ。あくまで、上司と仲間を殺されてヤマトへの復讐を誓うバーガーが、結局古代を撃たず、ヤマトと共闘してしまう。そういう物語として考えたとき、この映画の軸は始めて安定してくれたのだ」
「それに意味があるの?」
「あるのだ。この映画のいくつかの要素は、そう解釈した時のみ解釈可能になる」
「たとえば?」
「ヤマトが持つ属性は【地球を救う船】ではなく、【仇敵】なのだ。従って、ヤマトはバーガー物語が完結するまでの間、そこにいてくれなくては困る。急いでいるので【バイバイ】と言われては困るのだ」
「なんてこった」
「敵も同じことだ。バーガー物語の完結は、ヤマトとの共闘にある。しかし、実は共闘さえできれば敵はなんでも良かったのだ。すると、敵は【強いが弱い】という属性を持つ必要がある」
「【強いが弱い】?」
「そう。共同しなければ勝てない相手でなければならないが、バーガーと古代が手を組んだぐらいで波動砲を使用しないで勝てる程度の強さでなくては困る。だから、敵は【拾った超兵器を持った野蛮人】になる。超兵器を封じた瞬間、バーガーと古代で勝てる相手に変化してくれるのだ」
「なんてこった」
「更に重要なポイント。なぜ幻影を見せられてホテルなのか」
「それも理由があるの?」
「ある。実はガミラスの日常は設定がそもそも無いし、設定して描いても浮き世離れして感情移入できないだろう。しかし、バーガー物語にはそれが必要だ。ならばどうするのか。取れる方法はあまり多くない。方舟が使用したウルトラCは、第14話の変形リフレインだ。地球人の目から見ると、地球風のホテルに地球風の服を着てバーガーがいる。ガミラス人は自分の故郷の服を着て風景を見ているかもしれないが、それはガミラス人視点では描かないことで、横に置ける。結果として、地球人風の服を着て地球風のホテルで生活するバーガーを描くことが可能になり、バーガーの日常を【一般観客でも理解できるように】描くことが可能になる」
「でも、ヤマトや古代の描写も多いよ」
「そうなのだ。それにも関わらず、この映画のタイトルはヤマト2199星巡る方舟なので、ヤマトや古代の活躍を増やさざるを得ない。従って、映画の構造がいびつになり、どこかできしみが発生する」
ハーロック §
「実は頬に傷があるバーガーは、今回の戦闘で片目を負傷した。そして、ミランガルのブリッジでは舵輪を握っていた」
「ハーロックかよ」
ミランガル §
「そういえば、ミランガルの迷彩は理解不能だった。過剰に複雑過ぎるが、そこからメッセージ性を読み取れなかった。だが、この映画をバーガー物語だと解釈するとすんなり受容できた。つまり主人公メカだから、他のメカと違う目立つ要素が必要とされたのだ」
「つまり、サラミスは一色でもホワイトベースは多色で描かれるようなものだね」
「まあそうだな」
「でも、最初はバーガー乗ってないよ」
「ミランガルは、ルー・ルカが持ってきたZZガンダムみたいなものなんだよ。別人が持ってきた主役メカ」
主人公補正 §
「バーガー物語はバーガーが主役。だから主人公補正が入ると思えば、船体が2つに割れたミランガルでもまだ生きているわけだ」
「生き延びた理由は主人公補正か!」
まとめ §
「まとめるとキーワードはこうか」
「現時点で気づいたのはそのあたりだな」
- 陸戦
- スタートレック
- 強いが弱い
- 描けない日常を描く
- ハーロック
- 主人公補正
【ヤマトよ永遠に】のリフレイン §
「君のこの映画の評価はどうなんだい?」
「かなり低いぞ。映画としての出来は悪いと思っている。安心して他人に勧められる水準ではない。特に【ヤマトを見よう】と思っている人には勧められない」
「でも分析するの?」
「そうだ。【ヤマトよ永遠に】を分析した理由と同じだ。本来なら【こんな映画を作りたかったわけではない】という思いがひしひしと伝わってくるからだ」
「ではあえて質問する。この映画を素晴らしいと思って、屈託無く褒め称えている人達の感想に逆行して良いと思うのか?」
「思う。なぜなら、同じところを見ていないからだ。同じところを見ていないなら、感想が違っていても普通だからだ」
「でも、今の段階でこの話をする意味があるのかい?」
「あるぞ。少なくとも【主人公はバーガー】と割り切って見れば、見終わって裏切られた気分に陥る可能性は少しだけ減らせると思うからだ。少なくとも話がつまらないわけではないし、バーガーの演技は悪くない」
「ならば、あくまでバーガーを見るという意志を持って見に行く人には勧めても良いわけだね?」
「突っ込みどころ満載である点を許容できるならね。まあ昔からヤマトはそういうものだし、突っ込みどころは突っ込んで楽しめば良い」
「逆にいえば、【バーガー可愛い】という視点だけで見ているファンは、それほど裏切られていないわけだね?」
「そうかもね。他人の感想は良く分からないけれど。どんなにバカヤローな描写があっても関係ないかもしれない。バーガーの物語、演技、キャラクターは悪くないからだ」
「バカヤローな描写は、むしろバーガー物語を成立させるための必要悪ってことだね」
オマケ §
「それはともかく、ふと気づいたのだが、謎の星は上下に何かの軸があるように見える。あれって、天界譚の天軸にそっくり」
「ひ~」
「そして、空がフェイクで割れるのも天界譚に似ている」
「ひ~」
「でも宇宙の彼方に来たと思ったらそこに戦艦大和があるのは冥界譚」
「ひ~」
「でも中に入ると戦艦大和じゃないのも冥界譚」
「ひ~」
「というわけで、それならば自分ももっとイマジネーションを磨かねばと思ったよ」
「まだやるのかよ」
「推理サイボーグ真田シリーズで、小説【ゲール東京に現る(トーキョーゲール)】は書かないといかんなと思った」
「まさかと思うが、本当にゲールを?」
「そうだ。UX-01に撃沈された瞬間、現代日本に来たゲール。揉み手の翼、野心を載せてブルーゲールは東京を行くぞ」
「どこまで行く気だよ」
「たぶん、推理サイボーグが謎を解くまで」
「徳川埋蔵金の話はどうなった」
「それを先に片付けないと。書きかけなんだ」
「じゃあ書けよ」
「その前に、ゴーバリアン研究本の校正しないと」
「手広くやり過ぎ」