2015年01月13日
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世界初のパーソナルコンピュータは"Kenbak-1"という説に異を唱えよう

Written By: 川俣 晶連絡先

「よろしい。わざわざ無い時間を割いて批判というものを行ってみようじゃないか」

「何を批判するのだい?」

「世界初のパーソナルコンピュータは"Kenbak-1"という説さ。いや、説というよりもトンデモと言った方が良いな」

「なぜ世界的にトンデモが承認されてしまうのだい?」

「当時を知る者は少ないが、そもそもパーソナルコンピュータという言葉には、明快な定義が存在しない。それゆえに、【世間ではXXが最初と言われているが実は真実を発見してしまった】という【誤報】【勘違い】【思い込み】が絶えない。実際にはパーソナルコンピュータという言葉の定義を変えているだけなんだ」

「その事例はあるかい?」

「たとえば日本発のパーソナルコンピュータは日立バーシックマスターレベル1だという説があり、NECのPC-8001が初だという説を否定する。ところが、これは子細に見るとそもそも【言葉の定義が違う】ことによって起こる解釈の違いに過ぎない。バーシックマスターレベル1はパーソナルコンピュータではなくマイコンとして販売されていたからパーソナルコンピュータに含まれないと見なすか、それともスイッチを入れればすぐ動くオールインワンの商品だからパーソナルコンピュータなのだと見なすかで話は変わる」

「ではこの場合"Kenbak-1"説の何が問題なのだ?」

「理由は2つある」

  • ここでいう「パーソナルコンピュータ」の定義が恣意的でありすぎる
  • 自ら規定した「パーソナルコンピュータ」の定義にすら反している

「自己矛盾かい!」

「しかも、それ以前に結構インチキ臭い記述もある」

「インチキ臭い記述とは?」

「たとえばこれ」

BAIが最初の候補に挙げたのは「IBM PC」。正式名称は「IBM Personal Computer 5150」で、1981年に発売されました。長らくIT企業のトップを走っていたIBMが最初に発売したPCですが、「世界最初のPC」ではありません。

「どこがおかしいんだい?」

「これは、他メーカーにかなり遅れてIBMが発売したPCという商品名の商品に過ぎない。普通これを最初だと思う人はいない。いるとすれば、かなり無知」

「なるほど」

「それだけじゃないぞ。これなんか、こういう発想をする人は人格的にやばいだろう……と言わざるを得ない」

Altair 8800はアメリカのMITSが1974年に一般消費者向けに発売したコンピュータで、世界で初めてMicrosoftのソフトウェアを起動することが可能でした。BAIによると世界で最初のPCとしてAltair 8800が挙げられることがありますが、それはMicrosoft愛好家が犯しがちな間違いとのこと。

「どこがおかしいわけ?」

「Altair 8800について【世界初】と記述している本はそれこそ山ほどあり、別にMicrosoft愛好家に限定されない。それに何を持って【世界初】とするかで、いくらでも解釈は変わりうる世界だ。それなのに、一部の無知蒙昧な連中が変なことを言っているという嘲りのニュアンスがある言葉だが、では確かなことを言っているのかといえばそこも怪しい」

「嘲っているつもりで墓穴を掘っているわけだね」

「ちなみに、最初のマイクロソフト製品はBASIC言語だけれど、これがAltair 8800用に書かれたのは事実。でも、マイクロソフト製品を実行するためにAltair 8800が作られたかのような事実は一切無い」

「つまり【世界で初めてMicrosoftのソフトウェアを起動することが可能】は間違いで、本当は【Microsoftは最初に開発したソフトウェアをAltair 8800で起動するように作成した】が正しいわけだね」

「そう。それで動くように作ったのだから起動できて当たり前。それ以前の他のマシンで起動できないのも当たり前。それ用に作っていないんだから。ただし、ミニコンのシミュレータ上では動いていたようだ」

「そうか。じゃあさ。【自ら規定した「パーソナルコンピュータ」の定義にすら反している】ってのはどういうこと?」

「そうだ。この人はこういう定義をしているらしい」

  • アナログ計算機ではなく「デジタル」計算機であること
  • 大部分が自動式であること
  • 一般使用者でもプログラミング可能であること
  • 民生品として入手できたりキットが公開されていたりといったことで、入手が容易であること
  • 一般的な人が運べるぐらいの小ささであること
  • 高価すぎないこと
  • 特殊な訓練を受けていなくても使えるような、シンプルなものであること

「どこがおかしいんだ?」

「Kenbak-1は256バイトのメモリしか持っていないが、高級言語の利用はほぼ絶望的だ。VTLの"768バイトで何ができるか"の世界ですら768バイトを要求するのだ。それより少ない世界ではマシン語を使うしか無い。しかもアセンブラすら使えない。ひたすらハンドアセンブルして16進数を打ち込むしか無い。これはハードルが高すぎて、【特殊な訓練を受けていなくても使えるような、シンプルなものであること】という条件を満たさない。高級言語が使用できてすら可能か怪しい水準だけれどね。16進数を使うというのは絶望的だと思って良いだろう」

「君は16進数でプログラミングしたことある」

「あるよ」

「でも一般人には無理だと思う?」

「簡単なプログラムは書けるかも知れないが、実用的なプログラムは無理だろう。この規模のハードなら浮動小数点計算命令どころか、整数の乗除すらあったか怪しいレベルだろう。ハードルが高すぎる。しかし、問題は他にもある」

「どこ?」

「プログラムはパネルスイッチで入れるのだよ。それが何を意味するか分かるかい?」

「なんだい?」

「2進数の世界なんだよ」

「えー」

「プログラムを16進数で把握するだけでも大変なのに、実はそれですら不十分。実際は2進数で把握しなければプログラミングできない」

「なんてこった」

「それに【民生品として入手できたりキットが公開されていたりといったことで、入手が容易であること】という条件も怪しい。40台しか製造されていないのに、容易に入手できるわけがないだろ」

「うわー。40台って、その数は同人誌レベル」

「だからね。普通は買ってきてコンセントを刺して何かの実用ソフトを入れればすぐ使えるものを"パーソナルコンピュータ"と呼ぶことが多い。そういう意味で半田付けやプログラミングを要求するマシンは"パーソナルコンピュータ"に該当させない場合も多い」

「それは人によるってことだね」

「そうだ。定義は人それぞれだ。そして、自分だけに【マイ定義】を作ればいくらでも【真の世界初はこっちだ】という異説を唱えられる。とてもお手軽だ」

「なんで、そんなアホみたいなトンデモに引っかかる人がいるわけ?」

「知らないからだろう。【君だけに真実を教えよう】的な誘惑に弱い人も多い」

「でも実際には【君だけに教えられる真実】などという都合のよいものは無いわけだね?」

「たいてい、そんなものはない。そういうことを囁かれたら、まず誘いそのもののどこにトリックがあるかを疑うべきだ」

「今回の一件に関する君の見解は?」

「発言者には誠意を感じられない。単に【みんな知らないKenbak-1ってのを俺は知ってるぜ。偉いだろう】と自慢したいだけにしか見えないが、40台しか製造されていないなら大多数の人間が知らなくて当たり前。それに商品コンセプト的に【安くて小さくて低性能のミニコンを作ってみました(でも性能が低すぎて売れませんでした)】的な印象しか持てない」

「ミニコンってなに?」

「昔はそういうコンピュータの商品ジャンルがあったんだよ」

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「何を批判するのだい?」

「世界初のパーソナルコンピュータは"Kenbak-1"という説さ。いや、説というよりもトンデモと言った方が良いな」

「なぜ世界的にトンデモが承認されてしまうのだい?」

「当時を知る者は少ないが、そもそもパーソナルコンピュータという言葉には、明快な定義が存在しない。それゆえに、【世間ではXXが最初と言われているが実は真実を発見してしまった】という【誤報】【勘違い】【思い込み】が絶えない。実際にはパーソナルコンピュータという言葉の定義を変えているだけなんだ」

「その事例はあるかい?」

「たとえば日本発のパーソナルコンピュータは日立バーシックマスターレベル1だという説があり、NECのPC-8001が初だという説を否定する。ところが、これは子細に見るとそもそも【言葉の定義が違う】ことによって起こる解釈の違いに過ぎない。バーシックマスターレベル1はパーソナルコンピュータではなくマイコンとして販売されていたからパーソナルコンピュータに含まれないと見なすか、それともスイッチを入れればすぐ動くオールインワンの商品だからパーソナルコンピュータなのだと見なすかで話は変わる」

「ではこの場合"Kenbak-1"説の何が問題なのだ?」

「理由は2つある」

  • ここでいう「パーソナルコンピュータ」の定義が恣意的でありすぎる
  • 自ら規定した「パーソナルコンピュータ」の定義にすら反している

「自己矛盾かい!」

「しかも、それ以前に結構インチキ臭い記述もある」

「インチキ臭い記述とは?」

「たとえばこれ」

BAIが最初の候補に挙げたのは「IBM PC」。正式名称は「IBM Personal Computer 5150」で、1981年に発売されました。長らくIT企業のトップを走っていたIBMが最初に発売したPCですが、「世界最初のPC」ではありません。

「どこがおかしいんだい?」

「これは、他メーカーにかなり遅れてIBMが発売したPCという商品名の商品に過ぎない。普通これを最初だと思う人はいない。いるとすれば、かなり無知」

「なるほど」

「それだけじゃないぞ。これなんか、こういう発想をする人は人格的にやばいだろう……と言わざるを得ない」

Altair 8800はアメリカのMITSが1974年に一般消費者向けに発売したコンピュータで、世界で初めてMicrosoftのソフトウェアを起動することが可能でした。BAIによると世界で最初のPCとしてAltair 8800が挙げられることがありますが、それはMicrosoft愛好家が犯しがちな間違いとのこと。

「どこがおかしいわけ?」

「Altair 8800について【世界初】と記述している本はそれこそ山ほどあり、別にMicrosoft愛好家に限定されない。それに何を持って【世界初】とするかで、いくらでも解釈は変わりうる世界だ。それなのに、一部の無知蒙昧な連中が変なことを言っているという嘲りのニュアンスがある言葉だが、では確かなことを言っているのかといえばそこも怪しい」

「嘲っているつもりで墓穴を掘っているわけだね」

「ちなみに、最初のマイクロソフト製品はBASIC言語だけれど、これがAltair 8800用に書かれたのは事実。でも、マイクロソフト製品を実行するためにAltair 8800が作られたかのような事実は一切無い」

「つまり【世界で初めてMicrosoftのソフトウェアを起動することが可能】は間違いで、本当は【Microsoftは最初に開発したソフトウェアをAltair 8800で起動するように作成した】が正しいわけだね」

「そう。それで動くように作ったのだから起動できて当たり前。それ以前の他のマシンで起動できないのも当たり前。それ用に作っていないんだから。ただし、ミニコンのシミュレータ上では動いていたようだ」

「そうか。じゃあさ。【自ら規定した「パーソナルコンピュータ」の定義にすら反している】ってのはどういうこと?」

「そうだ。この人はこういう定義をしているらしい」

  • アナログ計算機ではなく「デジタル」計算機であること
  • 大部分が自動式であること
  • 一般使用者でもプログラミング可能であること
  • 民生品として入手できたりキットが公開されていたりといったことで、入手が容易であること
  • 一般的な人が運べるぐらいの小ささであること
  • 高価すぎないこと
  • 特殊な訓練を受けていなくても使えるような、シンプルなものであること

「どこがおかしいんだ?」

「Kenbak-1は256バイトのメモリしか持っていないが、高級言語の利用はほぼ絶望的だ。VTLの"768バイトで何ができるか"の世界ですら768バイトを要求するのだ。それより少ない世界ではマシン語を使うしか無い。しかもアセンブラすら使えない。ひたすらハンドアセンブルして16進数を打ち込むしか無い。これはハードルが高すぎて、【特殊な訓練を受けていなくても使えるような、シンプルなものであること】という条件を満たさない。高級言語が使用できてすら可能か怪しい水準だけれどね。16進数を使うというのは絶望的だと思って良いだろう」

「君は16進数でプログラミングしたことある」

「あるよ」

「でも一般人には無理だと思う?」

「簡単なプログラムは書けるかも知れないが、実用的なプログラムは無理だろう。この規模のハードなら浮動小数点計算命令どころか、整数の乗除すらあったか怪しいレベルだろう。ハードルが高すぎる。しかし、問題は他にもある」

「どこ?」

「プログラムはパネルスイッチで入れるのだよ。それが何を意味するか分かるかい?」

「なんだい?」

「2進数の世界なんだよ」

「えー」

「プログラムを16進数で把握するだけでも大変なのに、実はそれですら不十分。実際は2進数で把握しなければプログラミングできない」

「なんてこった」

「それに【民生品として入手できたりキットが公開されていたりといったことで、入手が容易であること】という条件も怪しい。40台しか製造されていないのに、容易に入手できるわけがないだろ」

「うわー。40台って、その数は同人誌レベル」

「だからね。普通は買ってきてコンセントを刺して何かの実用ソフトを入れればすぐ使えるものを"パーソナルコンピュータ"と呼ぶことが多い。そういう意味で半田付けやプログラミングを要求するマシンは"パーソナルコンピュータ"に該当させない場合も多い」

「それは人によるってことだね」

「そうだ。定義は人それぞれだ。そして、自分だけに【マイ定義】を作ればいくらでも【真の世界初はこっちだ】という異説を唱えられる。とてもお手軽だ」

「なんで、そんなアホみたいなトンデモに引っかかる人がいるわけ?」

「知らないからだろう。【君だけに真実を教えよう】的な誘惑に弱い人も多い」

「でも実際には【君だけに教えられる真実】などという都合のよいものは無いわけだね?」

「たいてい、そんなものはない。そういうことを囁かれたら、まず誘いそのもののどこにトリックがあるかを疑うべきだ」

「今回の一件に関する君の見解は?」

「発言者には誠意を感じられない。単に【みんな知らないKenbak-1ってのを俺は知ってるぜ。偉いだろう】と自慢したいだけにしか見えないが、40台しか製造されていないなら大多数の人間が知らなくて当たり前。それに商品コンセプト的に【安くて小さくて低性能のミニコンを作ってみました(でも性能が低すぎて売れませんでした)】的な印象しか持てない」

「ミニコンってなに?」

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