「なんでスチームボーイを見たんだい? いや、こう質問する方がいいかな。なんで今まで見ていないんだい?」
「宣伝に、いかにもつまらない雰囲気がぷんぷんしていたので」
「どのへんがつまらなそう?」
「世界の解釈が薄っぺらでね。子供の屁理屈レベルに見えたんだ」
「肯定的な評価は聞いていないのか?」
「聞いている。凄く良かったという評価は聞いた。でも、どうしてもその意見をストレートに受け入れる気にはなれなかった」
「実際に見た感想はどうだい?」
「映像美しく1級品、軍艦も素晴らしく1級品、メカも見事で1級品、だけどあらすじはつまんないよ3級品。あーあー南無三だ」
「は?」
「まあ、誉めるべき長所は多いが、おおまかなストーリーがどうしようもなくつまんないので、凄く損をしている作品だと思うよ。手間と時間と人手と予算を掛ける価値がどこまである企画なのか、ちょっと悩んでしまう」
「でも長所は多いんだろう?」
「そう。ここは破格に良く出来ていると指摘できる場所はそれこそ大量にある。1流以上かもしれない。超一流」
「でもストーリーはダメなの?」
「暗くて盛り上がりに欠ける」
「なんでそうなったのだと思う?」
「分からないよ」
「想像でいいから言ってごらん?」
「製作期間9年だそうだがね。時間を掛けすぎて隘路に迷い込んだのじゃないか?」
オマケ §
「蒸気メカの操作盤にピアノ風の鍵盤がある感じは、レイトン教授永遠の歌姫の元ネタなんだろうな、という気がした。要するにスチーム城がデスコールの城なんだろう。ロボットに変形するのが、追加の工夫なのだろうが、完全に要らない余計な工夫だったと思う。まあ他所から持ってきたアイデアをそのまま使う感じなら、余計なこともやってしまうのだろうがね」
「なるほど。レイトン教授にはそれほどの価値はなかったと」
「でも、ストーリーだけに限ればレイトン教授の方が面白かったよ」
「なんてこった!」
「ただ、本当に【鍵盤がある蒸気メカ】の元祖がスチームボーイなのかまでは自分には分からないところだ」
「サジを投げた!」
愚痴 §
「まあ、スチームパンクというジャンルの問題なのだがね」
「それはなんだい?」
「本物の蒸気エンジンがどういうものか知っている世代からすると、レトロな世界観にスーパーメカを持ちこむ口実として【蒸気】と言ってるだけのスチームパンクは面白くないのだよね。話が凄く嘘くさく見えるだけ。だったら蒸気って言うなよ。何か適当な設定をでっち上げろよって思ってしまう」
「そういう作品があるから、君はスチームパンクを敬遠しがちなのだね」
「そうそう。たとえばね。蒸気を封じ込めたボールがあれば凄いという発想は凄く嘘くさい」「なんで?」
「蒸気は冷えたら水に戻るんだよ。もちろん温度が下がっても蒸気の状態を維持する場合もあるのだが、そのためのエネルギーはどこからか供給しないと実現出来ないだろう。蒸気を蒸気のまま保存するという発想そのものに無理がある」
「だから、蒸気機関はその場で蒸気を作って駆動しているわけだね」
「そう。結局スチームパンクの限界は、【蒸気】と言ってしまった瞬間に大きな制約と嘘くささを抱え込んでしまうこと」
「解決策はあるのかい?」
「あるよ。たとえばね。もっと大きな嘘を作品に抱え込んでしまうこと。サクラ大戦が好例だけどね。あれほど嘘だらけの設定も無いのだが、【帝都の霊的防衛】というもっと大きな嘘を抱え込んだおかげで、嘘が致命傷になっていない。あれはあれで許せてしまうんだよ」
「リアルにやり過ぎると、かえって蒸気に関する嘘が目立つわけだね」
「まあね。まあ、今どき本物の蒸気エンジンを見たこともない人がほとんどだと言うのなら、どれだけ嘘を付いてもビジネスは成立するのかもしれないけどね」
「でも現実の蒸気エンジンを知っていると、蒸気エンジンで空を飛ぶというのは嘘くさいわけだね」