「最初は見なくてもいいかと思ったけれど、その気になれば自転車で行ける距離でやっているイベントなので、とりあえず1回は行こうかと思い直した」
「それで?」
「でも、昼間生還できる自信はなかったので、夜に出かけたよ」
「で、感想は?」
「結局、絵やグッズを売りたい小規模イベントという感じだね。原画展の縮小版延長戦」
「それでも目玉はあるのだろう?」
「加藤さんのサーベラーと、ガミラスの戦闘機を描いた巨大な絵。この2つが目玉だろうな」
「サーベラーは既に見ているのだよね」
「そうだ。おそらく本当に初見は、ガミラス戦闘機の絵と他数点だけだろう」
「分かった。じゃあ、そこの感想を言ってもらおうか」
「ふむ……難しいな」
「なんで難しいの?」
「どの視点で語るのかで話が違ってくる」
「君にはどんな視点があるんだい?」
「おおむね以下の3つかな」
- 宇宙戦艦ヤマトとして
- メカデザイン論として
- 一般論の飛行機絵として
「宇宙戦艦ヤマトとして……とは?」
「最近、旧キットの1/1000ヤマトを作ってね。設定資料と穴が空くほど見比べた。その結果。可能な限り設定に忠実にしようとしているのに、ヤマトとしてはあまり似てないという矛盾した状況があることが分かった。そういう意味でヤマトのデザインは最初から壊れているのだ。それによって、理想のヤマトを追求して止まない人がいる理由が分かった。壊れているからあれをそのまま承認することはできないのだ。そして自分が形状に一切こだわっていない理由も分かった。こだわる基準としての確立した形状は存在しないからだ」
「これが、この話とどう関係するの?」
「その観点で見ると、ヤマト2199のデザインはかなり形状の矛盾を解消していることが分かるのだが、結果としてヤマトらしさが不十分になっている。もちろん、箱にヤマトと書いて売って良い水準でヤマトの記号が盛り込まれているから、あれはヤマトだと思って消費している人も多くいる。しかし、十分に似ているかと言えば、そこまでは似ていない」
「えー」
「現実問題として似ていないグッズなどいくらでもあるから、似ていないから商品にならないという訳ではない。でも違うところを探すと非常に多い」
「分かったぞ。君は今日それに気付いてしまったのだね?」
「それが第2の話題に繋がる」
「メカデザイン論の話?」
「そうだ。実は旧キットの1/144ガンダムを組んだらガンダムとは似て非なる別のロボットが出現した。まあガンダムの記号を多く含んでいるから、箱にガンダムと書いて売って良いレベルではあるがね。でも、似てない。別物。おそらく、これは大河原ガンダムで、みんながガンダムだと思っているのは安彦ガンダム」
「どこに差があるの?」
「大河原ガンダムは、合体すると操縦者の分身になる。安彦ガンダムは合体するとガンダムという生き物になる。パイロットは、操縦スペースに立ってあれこれ指示する感じ」
「そもそもイメージが違うのだね」
「で、富野ガンダムは戦闘機」
「ひ~」
「というわけで、旧キット1/100ガンダムや1/144ガンダムと向き合っているうちに、同じデザインの解釈違いを読み解いていくスキルが磨かれた。久々にまとめてヤマト2199の絵を見たときに見えてきたのは、旧キットガンダムとMG以降のガンダムの差と、ヤマトとヤマト2199の差は本質的に同じ」
「元々同じデザインだったはずなのに、解釈の違いでまるで違うものに化けているわけだね」
「そう。1/1000ヤマト2199はMGで、1/500はPG、メカコレはHGUCじゃないかという気もする」
「で、旧キットはヤマト2199ではないわけだね」
「そうだな」
「で、メカデザイン論としてはどうなんだ?」
「ヤマト2199はヤマトの記号を大量に取り込んでいるので、ヤマトとして売って良い水準にはある。実際に、これをヤマトとして納得して消費している人達も多い。しかし、うるさいことを言えば、ヤマトではない要素も多い。今回は、そのあたりを冷静に見直すことができた」
「君の判断は?」
「ヤマト2199は宇宙戦艦ヤマトではない、というのが率直な感想。確かに大量のヤマトの記号を取り込んでいるが、骨格がヤマトではない」
「それが結論?」
「それで終わればいいんだけどね。では正しいヤマトとは何かと言われるとそれは定義不能なのだよ。少なくともヤマト2199は定義可能なのだ」
「では君には既に逃げ場は無いのだね?」
「もともとヤマトに唯一の形状は存在しないという立場だ」
「最後の一般論としての飛行機絵としてとは?」
「実は絵として不自然」
「どのあたりが?」
「ツヴァルケの左右のエンジンが低すぎて、ランディングギアのサスペンションが沈み込んだぐらいで地面に触れてしまいそう。あるいは、水平を保たない状態で接地するとそれだけで地面に擦ってしまいそう」
「それは飛行機としては不自然だね」
「しかし、そのことで描いた人を責めるのは酷かも知れない」
「なんで?」
「そもそも、そういう設定だからだ。設定資料を見て確認した。あれは地面に着陸できるような機体じゃない。もともとそういうデザインだ」
「えー」
「どうも、翼が動かないと矛盾をきたす設定内容に見えた」
「なるほど」
「でもさ。ツヴァルケに全く心が動かない理由が良く分かった」
「君はあれが好きじゃ無いの?」
「コスモファルコンも好きじゃ無いぞ」
「まあ、それは横に置いて」
「ツヴァルケは全般的に飛行機としてはバランスがおかしい。結局全体としてあり得ない形になっていたわけだ」
「ファルコンとツヴァルケが空戦しても、ぜんぜん何も感じなかったわけだね」
「あのシーンは動きも良くなかった。理屈に走りすぎて動きがつまらなかった」
「ダメじゃん」
まとめ §
「そろそろまとめてくれ」
「実は最近、ゴーショーグンの合体シーンの美しさについて思い出していてね。あれは破格だった」
「何の関係があるんだよ」
「あの美しさは、復活篇でヤマトを発艦した艦載機が背面飛行でヤマトを飛び抜けて行くシーンの美しさに近い」
「それで?」
「うん。自分はあらゆるアニメを見ている訳ではないから、あくまで限定的なのだがね。あの美しさを再現しているアニメはほとんど無い。特別な人材が特別な環境を与えられたときに、奇跡のように現れる何かなのだろう」
「それで?」
「ヤマト2199にも美しいカットはあるよ。あるけどとても少ない。でもそれが本来はノーマルだったんだよ」
「その真意は?」
「その人に才能があるか無いか、上手いか下手か、そういうことは実はあまり意味が無かったのだ」
「というと?」
「加藤さんがどれほど上手かろうと、それによって良い絵が仕上がってくるのかは全く別の問題。基本設定や、メカデザインの問題から、どこかおかしい絵になってしまうこともあるだろう」
「君はどう思う?」
「着陸したツヴァルケの上にガミラス艦が何隻も飛んでいるが、あれも本当は直感的におかしい。宇宙艦を飛行船のようなものとして捉えると飛び方がおかしいし、大型爆撃機的な存在として考えれば、そういう飛び方をしていることが不自然」
「加藤さんの描いた絵に良いものはあると思うの?」
「思う。でも全ての絵がそうだというわけでもない。描く前の段階の外枠で変な拘束が存在しているからだろう」
「それがいわゆる【設定】という奴だね」
「そう。設定なんぞ、どんどん無視して行くに限る。しょせんは人の作りし約束事に過ぎない。それに拘束されるなんてナンセンス。もっと自由に行こうぜ」
「ヤマトの艦底を緑に塗るように?」
「それも設定無視のやり方の1つだ」
オマケ §
「では君には既に逃げ場は無いのだね?」
「いや、我々にはまだ大倉ヤマトがある」
「そうだ、大倉ヤマトを出せ! 大倉ヤマト! 大倉ヤマト!」
「大倉ヤマト……」
「しかし、大倉ヤマトが戻ってくる気配は今のところ全く無い」
「ではミードヤマトで」
「それも遠いなあ」
オマケ2 §
「で、2015/08/21のうしおととらの、空自機がミサイルでふすまを撃つシーンは出来が良かった。やればできる人材はいるのだろう。でも常にこれができるわけではない」
「どこが良かったの?」
「接近していくミサイル視点で振り向くふすまを見るあたりとかね」