「昔は全国にヤマト博士がいた」
「ヤマト博士とはなんだ?」
「ヤマトのことなら何でも知っていると自惚れた天狗」
「なぜそんな自惚れが発生するの? ネットで議論をふっかければ一瞬で化けの皮が剥がれるのでは無いの?」
「当時ネットはないんだいよ。限られた情報源から得られる情報など微々たるもの。それを網羅すると、全部知った気になれた」
「なるほど」
「ところが、最近はヤマト復活のみならず、ヤマト博士復活の風潮が見られるようになってきた」
「どうしてだよ。ネットがあるのに、なぜ自惚れた天狗まで復活するんだよ。論争一発で化けの皮は剥がれないのかよ」
「ところが、剥がれないのだ」
「どうしてだよ」
「ヤマト2199以降のヤマトは、新しい正解として機能しているからだ」
「新しい正解が存在すると、なぜ化けの皮が剥がれないの?」
「古い基準で考えれば、新しい正解は誤答だからだ。しかし、新しい基準で考えれば、古い正解は時代錯誤の異物に過ぎず、それに拘泥するのは時代の変化を分かっていない老害に過ぎないからだ」
「つまり、何を主張したとしても、それが完全な正解になることも完全な誤答になることもないのだね」
「そうだ。つまり自分の正解は自分で決めるしかない。誰も決めてはくれないのだ」
「そこに罠があるのだね?」
「そうだ。【自分の正解は自分で決めるしかない】とは、自分の帝王は自分でなるしか無いことを意味するが、しばしば【自分の】という前提が曖昧になり、【私の解釈こそが正しいのである】という認識に化けやすい」
「つまり、それがヤマト博士復活篇だね」
「しかも、支持者が付いたりすれば尚更ヤマト博士は補強される」
「それはファンの問題かい? スタッフの問題かい?」
「おそらく、そういう区別を越えてどこにでも、ヤマト博士はいるのだろう……と推測する」
「そう表明している人は全て?」
「いや。内心で【本当は俺が一番だ】と思って他人を馬鹿にしている隠れヤマト博士も多いと思うよ」
オマケ §
「なぜ今ヤマト博士なのだろう。なぜ復活篇でもSBヤマトでもヤマト2199でもなく、ヤマト2202の今になってヤマト博士なのだろう」
「復活篇やSBヤマトは異質なるものを作品中に取り込んでいて、何もかも分かってしまう世界観ではなかった。ヤマト博士復活の追い風ではなかった」
「ヤマト2199は?」
「実はヤマト2199的な世界観が明瞭になってくるのはガミラス本星決戦のあたりからで、途中までヤマト2199は未知なる異物だった。しかし、最終的に異物が存在しない世界観になって、【メンタリティは同じだな】で終わってしまった。従って、実はここでヤマト博士誕生の種は蒔かれていた」
「メンタリティが同じであるならば、僕の考えは君の考えでもあるはずだ……と認識可能になるわけだね」
「そう。メッツラーやSBヤマトのデスラーの異質感はもう無い」
「ヤマト2202は【メンタリティが違う】のではないの?」
「いや、実はあまり違っていないのだよ。古代と違うだけで、古代の敵対者の地球人とは大差ない」
「えー」
「かくして、ヤマト博士の時代が再びやって来たわけだ。何もかも全て理解できるという錯覚に支えられた【何でも知っている僕】【正しいことを知っている僕】がネットににょきにょき出てきて、絶対に出ないはずの正解を巡って死闘を繰り広げているが、唯一の正解が存在しない以上、死闘から死闘に続く大死闘の息吹は永遠に終わることはないのだ。当事者が疲れるか飽きるまではね」
オマケ2 §
「君はヤマト博士なのか?」
「残念ながら分かっていないことは多い。何でも知っていると自負するにはちょっと弱いな」
「正しいことは知っている?」
「何が正しいのか分からないことも多いよ」
「じゃあなぜヤマト博士が気になるんだ?」
「彼らは自分の疑問に答えてくれないだろう……と思うからさ」