「なぜこれを見たの?」
「何か映画でも1本見るかと思って府中の映画館のナインナップを見たがピンと来るものがなかった。でも、調布の映画館のラインナップを見ると、これが載っていて直感でピンと来た」
「直感だけで見たの?」
「そうだ。中身は何も知らない」
「実際に見てどうだった?」
「凄く面白かったぞ。予想以上だ」
「どこが面白かった?」
「今の日本のオタク向けのアニメに無いであろうものがここにあった」
「それはどういうこと?」
「オタク向けのアニメの重要事項はおそらく【お約束】だ」
「それで?」
「この映画は西遊記だけど原作を全くリスペクトしておらず、設定からキャラクターまで全くの別物」
「お約束を力一杯無視しているわけだね」
「そう。新しい伝説は俺達が作るという気概に満ちている。非常に好ましい特徴だ」
「それは日本のアニメは中国に負けるという中国脅威論かい?」
「いいや。基本をないがしろにして世の中を舐めている日本のアニメは自壊するだろうという日本ボンクラ論だ」
「えー」
「指摘する気になればこの映画にも欠陥はいろいろあるが、それでも基本がきちんと踏まえられているし勢いもあるから気にならない。最後まで見せられてしまう。今の日本で勢いのある国産アニメは少数派だろう」
「客層はどうだった?」
「割り引き日だったが平日だった……という状況で9人いた。今一つ日本では注目されていないような気がするが、中国ではヒットしたようだ。まあヒットして当然の内容だったと思う」
「日本人の感性が鈍っているのかな」
「さあ。それは分からない。しかし、中国と言うだけで馬鹿にしてスルーするような風潮は、完全に負けフラグだね」
「しかも、相手が勝ったわけではなく、自滅負けだね」
オマケ §
「この映画はね。仏教がベースなんだ」
「それがどうした」
「中国では日本ほど仏教が盛んではない」
「だから何?」
「西遊記だから仏教なんだよ」
「三藏法師が出てこなくても?」
「そうだ。そこはちゃんと仏教なんだよ」
オマケ2 §
「この映画、日本で作ったら絶対に【女の三藏法師】と【沙悟浄】が出てくるね。それがお約束だから。で最後にお釈迦様が出てきて悟空は許される。戒めは腕輪じゃなくてもちろん、頭に輪っか」
「作り手の発想が貧困ということ?」
「いや。客がそこからの逸脱を許さないだろう」
「中国の客は寛容なのかな?」
「いや、西遊記をよく知らないだけだろう」
「えー」
オマケ3 §
「最後に気付いたが、ドラゴンボール(あるいは最遊記)ぐらい逸脱して良い、と日本の作品が教えた帰結がこの内容かも知れないと思うと、ドラゴンボール復活しかできない日本と、独自解釈で新しい孫悟空像を提示した彼らの差は大きい」
「お願い神龍、日本にもドラゴンボールを産み出せるダイナミズムを戻して」