「原恵一監督のバースデー・ワンダーランドを見てきたぞ」
「どうだった?」
「細部はいずれも良くできているが、全体的なストーリー構成が甘い。たとえば、アカネの物語の筈が、前半はヒポクラテスとチイの物語に見えてしまう。そういう意味で、物語が掴みにくい。眠気を発生させてしまう。とはいえ、そこを除けば非常によくできた映画だと思ったよ」
「どこが良かった?」
「多摩川の土手みたいな場所を自転車で走るところとか。まあ、原恵一監督はカラフルで二子玉川を舞台にしているから多摩川なのだろう。まあ全般的にカラフル的な味わいがあったのは確かだと思うけど」
「他に何か気付いたことはある?」
「ストーリーが少し眠かったことに対してキャラクターの描き方はもの凄く上手くて、どのキャラクターも凄く魅力的であった。特にあの母親。甘いだけのとぼけたキャラかと思ったら、一切具体的な説明がないのに最後にどんなキャラだったのかが分かってしまう。あれは凄いね。それから冒険の相棒の小さな少年ピポがもの凄く魅力的で、物語の牽引役になっている」
「もっと他に何か思ったことはない?」
「あの戦車は宇宙戦艦ヤマトの隠喩だね。大砲が付いていて、赤い矢印が描いてる。前のめりのペンダントも碇型だし。ヤマト2202の何がダメで、どういう物語を描き得たのかという可能性を提示したものではないか、と受け取ってしまった」
「赤い矢印かよ」
「赤い矢印だ」
「ポケモンにも白い彗星が登場するし、ヤマトは意識されているのだね」
「しかし、バースデー・ワンダーランドはバースデー・ワンダーランドとしての価値がある。本質的に、これは大人になることの隠喩が誕生日なのだ。大人になれる体験が誕生日プレゼントなのだ。大人になるというのは、口をあけて待っていることではなく、自ら前に進まねばならない」
「つまり、前のめりだね」
「たとえば改元に際して【次の時代は良くなりますように】と祈るのはダメ。良くするように何を行動できるかが重要」
「他力本願じゃダメなのだね」
「だから、アカネはチイやヒポクラテスから切り離されて自分で一人で問題を処理しなければならない状況に陥って、初めて前に進める」