若大将シリーズという映画がある。
大ざっぱに言えば、歌が上手く女にもてる若大将と、女にもてない青大将と、マドンナの澄ちゃんの三角関係である。基本的に若い大翔と澄ちゃんは相思相愛で青大将は横恋慕しているだけである。なぜ話がこじれるのかといえば、なまじ若大将は歌が上手く女にもてるので、まわりに女が多いからだ。だから澄ちゃんは臍を曲げる。しかし、若大将自身は単に澄ちゃんと仲良くなりたいだけなのだ。
という話を前提にして何が言いたいのかと言えば、らんま1/2の基本も同じであるということだ。
らんま1/2というのは、理想の女になる能力を獲得した早乙女乱馬が女の世界を覗きに行く……という話ではない。
実は【早乙女乱馬は天堂あかねが好き】というシンプルにそれだけの話なのだ。
天堂あかねは、気が強く格闘も強く、言い寄る男も自力でぶちのめす美しい女豹である。完全に自立した女と言える。早乙女乱馬と比較すれば戦闘力は劣るとは言え、それはあまり意味がない。なぜなら、天堂あかねは男に依存する必要がない強さを持っているという、ただその点だけが重要だからだ。だからこそ、天堂あかねには特別なオーラがあり、早乙女乱馬はそこに惹かれたのだろう。
ただ、それだけのラブコメならおそらく3巻ぐらいで完結する平凡なラブコメで終わりだろう。
だから、ここに話がこれじれで簡単に話が決着しない要素が投げ込まれる。若大将シリーズなら【若大将は無駄にルックスが良く歌が上手い】という要素に対応するものだ。らんま1/2では、早乙女乱馬が水をかぶると、理想的な女性である天堂あかねを超える超理想的な女になってしまうのだ。女性的な魅力も格闘の強さも天堂あかねを超えてしまう。その結果として、天堂あかねは早乙女乱馬の求愛を素直には受け入れることができなくなり、早乙女乱馬自身も本当に天堂あかねで良いのかという迷いが発生してしまう。ただ、話の軸はあくまで【早乙女乱馬は天堂あかねが好き】という部分にあり、早乙女乱馬が女になる体質はこの恋路を邪魔するお邪魔虫に過ぎないのだ。
であるから、女乱馬のまわりには【彼女】を誘惑するまともな男は出てこない。だいたい、男は変態である。めぞん一刻における惣一郎さんあるいは五代さん的なキャラクターはいない。彼らは単なる恋の障害物でしかない。逆に、女は、シャンプーにせよ右京にせよ、わりとまともなキャラが多い。早乙女乱馬と天堂あかねの間に割り込む恋のライバルは、男の早乙女乱馬が主人公である以上、女である必要があるのだ。しかし、これは不発で終わる。なぜなら、どのように頑張ろうとも【水をかぶった女乱馬の方がもっと魅力的だから】だ。だからそこで滑ってしまうところも作品のコメディ性を支えている。
ただ全ての女性キャラがまともかといえばそうではなく、苦悩小太刀や白鳥あずさなど変態の女性キャラも多い。変態には恋愛感情を持つことは難しく、三角関係には発展しにくい。しかし、恋のお邪魔虫としての機能は発揮できるのだ。まあそれは男性の変態でも同じことではあるが。
つまり、らんま1/2という作品は、【早乙女乱馬は天堂あかねが好き】というシンプルな状況を延々と遠回りして描いているだけと言える。水をかぶると変身する能力や、変態キャラの多くは、全て遠回りを強要する恋の障害なのだ。