「気にはなっていたが、話題になったので見てきた。話題の怪作、窓際のトットちゃんだ」
「芸能人の自伝ベースの甘っちょろい芸能人映画じゃないの?」
「そんな感じで宣伝しているが全くの正反対」
「どんな感じだと思えばいいんだ?」
「何に近いのかと言えば、この世界の片隅に、に近い。いや、もっと悲惨かな。この世界の片隅に、は主人公が爆弾で腕を奪われて義姉の子供が死んだりするぐらいで、家族はみんな揃って孤児を家族に迎え入れるゆとりがまだある。しかし、窓際のトットちゃんにはそんな救いは存在しない」
「結局どんな映画なんだ?」
「ヒロインがあらゆるものを奪われていき、それと引き替えに大人になっていく映画だな。だから、映画が始まってすぐ、トットちゃんが改札を出るときに駅員から切符を奪われる。あれは、【あらゆるものが奪われていくヒロインが最初に奪われるもの】であって、これから奪われる話が始まることを暗示する展開なのだろう」
「なんて酷い映画なんだ」
「だからさ。最後のシーンはヒロインが列車に乗っているシーンで締めくくられるがこれは日本沈没(1973)と同じなんだ。何もかも奪われるストーリーは日本沈没に近いと言われるとその通りなんだろう」
「なるほど。そういう作品なんだね」
「でもさ、この映画が本当に恐ろしいことは別にある」
「それは何だ?」
「これ、実話ベースなんだよ」
「えー」
「実話ベースだから、トモエ学園はWikiPediaの項目があって、リトミック教育を日本で初めて実践的に取り入れた学校とか、東京大空襲により校舎が焼失って書いてあるんだよ。電車を教室に使っていた時期があるってことも書いてある。全く映画の通りの話がそこにあるんだよ。ちなみに、トモエ学園はこのあたりと思われる」
「なぜそれが気になるんだ?」
「昔、自転車でこの近くまで行ったことがあるので、ちょっと気になる」
その他の雑感 §
「昭和10年代の自由が丘周辺が描かれているが、これは丹念にリサーチして描いたものだろうな」
「ふむふむ」
「東急の電車が良く出てくるぞ。単行運転の濃いグリーンの電車でな」
「なるほど」
「あと、都電も出てくる」
「ふむふむ」
「それから、電車を教室にしている学校っていいよな。おいらも行きたい」
「ははは」
「オーケストラは高畑勲監督のセロ弾きのゴーシュを彷彿させる。作品は全体的に高畑勲っぽいテイストに似ている感じはある」
「あの系列の後継作品ってことだね」
「まあ、セロ弾きのゴーシュが火垂るの墓の世界に投げ込まれたような作品ではある」
「えー」
「あとさ。全裸の無数の人達が描かれているアニメ映画見たのは、イデオン発動編以来じゃないかという気がする」
「全裸って何だよ」
「服を何も着ていない状態。まあ、はっきり言ってとんでもない映画だよ」
「とんでもないな」
「ギョッとするようなシーンも多い怪作だ」
「それだけ?」
「あと最後に1つ」
「なんだよ」
「自由が丘の駅員さん。ただ改札に立っているだけの脇役かと思ったがとんでもない」
「駅員さんに何が起こるんだ?」
「それは見てのお楽しみ。いや、楽しくないか」
「ぎゃふん」