GO!GO!アトムは2019年のアニメであり、手塚治虫の鉄腕アトムのアニメ化作品でもある。
そもそも鉄腕アトムの主人公アトムは、実はあまりキャラクターとしては面白くない。酷い境遇が連続することと、それを跳ね返す絶大なパワー(10万馬力)があるので話が成立しているが彼単体では、こぢんまりした品行方正な意外性のない少年である。つまり、単体で主人公になることは難しい。
同じようなことはお茶の水博士にも言える。お茶の水博士はアトムの倫理観の規範になるような面白みも逸脱もあまりないキャラである。彼は奇矯な天馬博士との対で意味を持つキャラであろうが、リメイクで天馬博士抜きで登場するとやや浮いてしまう傾向がある。
さて、問題はGO!GO!アトムである。
GO!GO!アトムは、アトムに降りかかる様々な苦難もなく、天馬博士も出てこない。
割とお気楽な世界観である。
であるから、それ単体では【脳みそがトコロテン】あるいは【伸びたラーメン】のような作品にしかならない。
実はそこで作品を引き締めているのがスズとアトニャンである。アトニャンはアトムの猫型ロボットだが、性格は正反対ですぐに規範を逸脱するイタズラ好きである。スズは知性派であるが、幼く未熟である。だからアトムは未熟なスズから目標を提示されつつ、暴れるアトニャンを何とかしなければならない。そこに物語としての緊張感が生まれ、我々は問題に立ち向かうアトムに感情移入できるようになる。
実はこの構図はそのまま博士チームにもある。
お茶の水博士は単体では面白みのないキャラである。しかし、自分勝手に暴走するブラント博士と、アトム、アトニャン、スズの母親的な大人の女性であるセレナ博士が存在することで、お茶の水博士もまた気苦労の多い立場になり、そこで我々は感情移入できるようになる。
考察 §
実は、本作は原作は日本だがアニメはフランス製である。それを翻訳して日本で放送している。つまり、センスはフランスであり、日本に於けるアトムに対するお約束が全く守られていない。
だから、そのお約束の破棄によって、国産ではあまり成立しにくい新しいアトム像を提示できたと言えるのだろう。それは非常に好ましいものである。
ついでに言えば、本作の背景にある文化はバンドデシネであると思えば、それはそれで納得できる部分もある。