正統があれば異端あり。異端の宇宙世紀史へようこそ。
ビーム砲が折れてどこかに行ってしまったボール、往年の主力宇宙戦闘機だがザクには力不足が明白のセイバーフィッシュ、そして、モビルスーツ時代に対応する改良が施されたとはいえ、ザクと1対1で戦うには非力なサラミス。彼らの前に、突如、1機のザクが出現したのでした。
ザクに向かってセイバーフィッシュが銃撃を繰り返しますが、ザクの装甲はそれを跳ね返してしまいます。
既にザクの弱点は知れ渡っており、関節部を狙えば、セイバーフィッシュの銃撃でもザクを行動不能にできることを、パイロット達は知っていました。しかし、それは、関節部に当たればの話です。激しい機動を行っているザク相手に、そんな精密な射撃がそう簡単にできるわけがありません。しかし、万が1つの可能性を信じて、セイバーフィッシュのパイロットは銃撃を繰り返しました。
一方、ボールのパイロットの方は、もっと冷静に状況を確認していました。そして、ボールはセイバーフィッシュの前に出ると機体を接触させました。パイロット間の会話が可能になると、すぐにボールのパイロットは、無駄弾を撃つなと怒鳴りました。
セイバーフィッシュのパイロットは現場作業員上がりに怒鳴られて激怒しました。
しかし、ボールのパイロットは3分だけ射撃を待って弾を取っておけというのです。
何をするか知らないが恥を晒すだけだろうと思ったセイバーフィッシュのパイロットは、傍観を決め込むことにしました。
ボールはいきなりザクに向かって全力加速を掛けました。
それに気付いたザクは、振り返ってザクマシンガンを構えました。
しかし、加速の付いたボールの動きに、ザクの動きは間に合いませんでした。ザクマシンガンの一連射は、とうにボールが通り過ぎたあたりに吸い込まれていきました。
そして、構えられたボールの作業アームが、すれ違いざまに、ザクの腹部に叩き込まれました。
その衝撃に耐えられず、作業アームは折れて飛び去ってしまいました。
そらみたことかと、セイバーフィッシュのパイロットは思いました。しかし、その直後に、おや?と思いました。ザクの動きが止まっているのです。
そうか、ショックでパイロットが失神しているな、と気付いた彼は、その隙を逃さず、慎重に関節の弱い部分を狙って、数連射を叩き込みました。ザクの右腕の関節が力を失ってだらりと浮かび上がりました。
同じように右腕の関節も破壊しました。
固定武装を持たないザクは、腕の関節を両方とも破壊されると、いかなる武器も持てません。事実上、このザクは無力化されたのです。
結局、息を吹き返したザクは降伏し、ボールでザクを曳航しながらサラミスに戻ることになりました。
この事件は、本来なら宣伝されてしかるべきものでした。セイバーフィッシュとボールが一致協力すれば、ザクにも勝てるのだという、良い宣伝になったはずです。しかし、私的な決闘という経緯が経緯ですから、詳細は関係者により揉み消されました。
しかし、エリートパイロット達からは、ボールは強力かつ有益な兵器であるため、この量産とパイロット育成には力を入れるべしというアピール文が出されました。彼らはボールに対して好意的な態度を取るようになったのです。
とはいえ、彼らエリートパイロット達は、ボールに適性があるのは、作業ポッドに慣れた作業員経験者であるとし、ボールのパイロットからは身を引きました。そして、一部はV作戦への強力のためテストパイロットとしてサイド7へ赴き、他はジャブローでシミュレーション訓練に励みました。
さて、スペースコロニーをあれほど大量に建設しただけあり、作業員経験者は連邦軍内にも豊富に存在しました。彼らの中からパイロットを選抜し、ボール部隊は驚くほど早急に形を整えていきました。
ところが思わぬところで、ボール部隊の未来に暗雲が立ちこめました。
ある偉い人が、急速にふくれあがるボール部隊の陣容を見て、こう言ったのです。「まだ地上に多数のジオン軍がいるというのに、宇宙専用兵器にばかり、こんなに金を掛けるのはけしからん。そんな金があったら地上でも使えるGMを1機でも多く作るべきだろう」
続きます。
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