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2004年10月14日
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矢野徹さんの訃報に思う

Written By: 川俣 晶連絡先

 SF作家、翻訳家にして、実はゲーム、パソコン業界にも影響を残す矢野徹さんが亡くなったそうです。

<訃報>矢野徹さん81歳=作家、翻訳家 SF界の草分けより

 矢野徹さん81歳(やの・てつ=作家、翻訳家)13日、大腸がんのため死去。(以下略)

 このような訃報に際して、ハインラインの翻訳がどうの、という程度の感想しか漏れてこない事例があることに気付いて、軽く「一切翻訳の話題が出てこない」矢野さんの思い出について書いておくのも悪くないと思いました。ちなみに、個人的な面識は全くありません。ありませんが、どういうわけか矢野さんの著書に人生の中で何回も出会うという経験がありました。つまり、いつまでも懐かしい思い出にならない人だった、と思います。

矢野さんの経歴 §

 このあたりに、概要が記されていますが。

 まずポイントになるのが、日本陸軍善通寺騎兵連隊の下士官の経験者であることでしょう。明らかに、知識だけから構成された軍隊描写とは一線を画する説得力があったと思います。もちろん、妄想小説の中では軍曹将軍のようなあり得ない階級を書いている事例もあると記憶しますが、それは現場の経験者であるからこそ可能な逸脱というべきでしょう。

 その後、進駐軍が持ってきたSF小説にはまり、その後、日本にSFを普及させるために尽力され、SF界の長老とも言われた人です。

 しかし、SF界の重鎮になって終わってしまった作家も多い中、矢野さんは違いました。

 何と、マニアックなパソコン雑誌の方にも進出してきたのです。

 パソコン雑誌に出てくるSF作家といえば高千穂遙さんが有名ですが、量の高千穂、質の矢野というような印象を感じます。

 思想的には「右翼」を自称されていたような記憶がありますが、極めて発想が現実的で健全であり、とても町中で見かける迷惑な右翼の同類とは思えなかったような印象があります。

 では、本題に入って、以下に個別の書籍等の話を書きます。

新世界遊撃隊 §

 子供の頃に図書館で借りて読みました。

 とても面白かった記憶があります。

 もちろん、「世界遊撃隊」という小説があって、それに「新」を付けたものだとは当時は知りません。

 具体的な内容や感想は既に忘却の彼方ですが、空飛ぶ潜水艦「はやかぜ」に触発されて、水中航行と飛行ができる模型の構造を考えていたことがあります。いやまあ、基本的にはヘリコプターに近い構造の機体で、完全水密構造にしておけば、ローターを逆回転させて浮かぶ代わりに水中に潜り込めるのではないかと思っただけですが (汗。

孤島ひとりぼっち §

 読んだ経緯は良く覚えていません。実は別の作品の話だったかも知れません。新世界遊撃隊とどちらが先かも分かりません。

 船が難破して孤島に流れ着いた少年が、孤独を紛らわせるために積み荷のロボットの組み立てキットを組み立てる話です。この話が秀逸なところは、作っても作っても動かないところです。精密機械を扱う配慮が欠けていたことに気付いて、最後のキットを慎重に組み立ててやっと動くところが感動的だった記憶がありますが、もはや記憶も曖昧で正しい情報か分かりません (汗。

悪夢の戦場 §

 一連の妄想小説の代表作、でしょうか。

 矢野さんの妄想がひたすら続く小説ですが、これがまた痛快で面白いのです。肉体が若返ってヒーローのごとく大活躍。

 こういう小説もありだと示した点は重要だと思いますが、作家のマスターベーションにならずにエンターテイメント性を発揮させるのはかなり難しいような印象も受けます。

ウィザードリィ日記 §

 ウィザードリィとは、コンピュータRPG(ロールプレイングゲーム)の古典的名作です。(もちろん、主に第1作を示しています)

 基本的には、矢野さんがこれをプレイした日記を記した書籍ということになります。(他の話題も多いですが、それはさておき)

 これは2つの異なる路線が意図せずに1つに合体したものだと言えます。

 1つは、ウィザードリィのようなスタイルのRPGは、ゲームより与えられたストーリー性が極めて希薄であること。そのため、自分が作りだしたキャラクターに対して、こいつはどういう奴であるか、という設定のようなものを、自ら考えて思い入れねばなりません。そして、事前に予測不能で、しかも灰も残らないロストもあり得る緊張感ある冒険が、彼らに血肉を与え、生々しい愛着を発生させます。

 そのようなウィザードリィの性質は、まさに妄想小説の路線上にピッタリ噛み合ったと言えます。

 そこで出現するのが、ウィザードリィ妄想日記です。コンピュータ内の単なる記号が、まるで生きているかのような生々しい存在感のあるキャラクターとなり、矢野さん本人もキャラクターの一人と同化して冒険の旅に出ます。

 そして、このウィザードリィ日記の存在は、ゲームはこうして遊ぶこともできるのだ、というある種の衝撃をまだゲーム業界と明瞭に分離されていなかったパソコン業界に放ったような印象があります。

 ウィザードリィ型のゲームで、プレイヤーがいろいろと思い入れることができる、という発想のない人もけして少数ではなかったと思うし、発想があってもここまで生々しく思い入れて良いのだ、とまでは思っていなかった人もかなりいたような印象があります。

かな漢字変換とワープロ §

 ゲームの話題は、今となってはパソコンの世界とは別世界という感じがあります。

 しかし、まさにパソコンという話題があったという記憶があります。

 既に記憶が曖昧で、凄くデタラメなことを書くかも知れません。

 昔、どこかのパソコン雑誌で日本語ワープロか、かな漢字変換についての特集記事があったと思うのですよ。バグニュースか、その前身あたりの雑誌だったか?

 当時、既に世の中の主流は16bitパソコン、PC-9801だったわけです。

 それにも関わらず、矢野さんは一人で既に時代遅れだった8bitのPC-8801用のワープロを推していたのです。このソフトは、どうもディスクユニットに入っているサブCPU(といっても本体と同じZ-80)も全て駆使して快適さを実現させていたらしいのです。実際、初期のPC9801が相手なら、PC-8801MRクラスを持ち出せば勝てる可能性はあったと思います。メモリやディスクの容量は遜色ないし(PC-9801初期モデルもPC-8801MRもメモリ標準128KB搭載……だったと思う)、2個のCPUで適切に負荷分散できれば、変換しながら辞書先読みのような処理は、むしろCPU1個よりもスマートに処理できた可能性はあり得たと思います。もちろん、PC-8801のサブCPUまで叩くプログラミングをやってた人間の意見ですから、けして単なる妄想で書いているわけではありません。とはいえ、かな漢字変換のプログラムは書いたことがないし、何せ昔の話ですから、信頼性はありません (汗。

 ここで非常に印象的だったのは、周囲はもはや8bitなど論外で相手にもしないという雰囲気であったのに、ただ一人、矢野さんは8bitや16bitという流れに関係なく、自分が良いと思ったものを良いと言ったストレートさです。

 これは、パソコン雑誌でいろいろなソフトレビューを読んだ中でも最も印象に残る話です。

 もしかしたら、流行を信用せず、自分で見たものしか信じないという現在の私の態度に、何かしらの影響を与えているかもしれません。

終わりに §

 以上の話は、本人とは全く無関係な人間が、たまたま目にした本から受けた印象を語ったものであって、これらの印象が適切に本人を表現しているという保証はありません。悪しからず。

 しかし、こうしてまとめてみると、それぞれの時代で、全く異なる鋭いものを見せてくれる人だったのだな、と思いました。世の中には、ある瞬間にだけ最先端に立つ人と、常に最先端に立ち続ける人がいます。後者は、おそらく最先端に立ち続けねばいられない、つまり止まることができない創造的な人です。かつてSF作家はすべて最先端の人に見えましたが、その中でも常に最先端に立ち続ける人は少数派であり、矢野さんは希有な人材であったのだろうと思います。

 とはいえ、ウィザードリィ日記を書いた時点で既に60代という年代を考えれば、今ここで亡くなったことを惜しむべきではなく、よくぞここまでと賞賛すべきではないかと感じました。

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