2008年10月27日
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「立喰師列伝」は押井版「方丈記私記」であるか?

Written By: トーノZERO連絡先

 堀田善衛の「方丈記私記」は、「宮崎駿は、『方丈記私記』のアニメ化を長年に渡って構想していた」(WikiPediaの堀田善衛より)とされ、(萌えとしか叫べない今時のオタクに対してはともかく)アニメファンから見て必ずしも縁遠い小説ではありません。近いとも言えませんが、遠すぎるとも言えません。

 それはさておき。

 堀田善衛の小説は「路上の人」だけ読んでいましたが、最近になってやっと「方丈記私記」を読みました。しかし、読み始めてすぐに「むむっ。これは!」と思いました。

 この小説は構造が特異なのです。著者も一種の登場人物であり、しかも著者と著書が二重に存在しています。

時代を見る鴨長明という人物

 ↓

鴨長明の書く『方丈記』という本

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書籍を見る堀田善衛という人物

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堀田善衛の書く『方丈記私記』という本

 ここでは、鴨長明が見た「荒廃した都」の光景と、堀田善衛が太平洋戦争末期の東京で見た「空襲で焼かれた東京」の光景が重なって重なって描かれます。鴨長明と方丈記を語る行為は、著者自身と自分の生きている時代を語る行為とだぶって存在します。だから、ほとんどの語り口が鴨長明とその時代を語ることに費やされているにも関わらず、「方丈記私記」が語る対象は「現在の日本」そのものとなります。

立喰師列伝 §

 しかし、この二重構造に気付いてすぐ連想したのは、押井守の「立喰師列伝」です。

 まず、分かっていない人が多いと思うので説明すると、立喰師列伝は「異端の民俗学者・犬飼喜一の労作『闇の系譜/立喰師の世界』という書籍で語られる立喰師達について語る小説/映画」です。立喰師を主人公とした小説/映画ではありません。

 つまり、以下のような構造を取ります。

立喰師という人々を見る犬飼喜一という人物

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犬飼喜一の書く『闇の系譜/立喰師の世界』という本

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その本を見る押井守という人物

 ↓

押井守が書く/監督する『立喰師列伝』という本/映画

 これは「人物→著書→人物→著書」という構造であり、方丈記私記と全く同じ構造を取ります。

 もちろん、以下のような相違も存在します。

  • 鴨長明は実在する人物だが犬飼喜一は架空上の人物である
  • 方丈記は実在する書籍だが『闇の系譜/立喰師の世界』は架空上の書籍である
  • 方丈記私記では堀田善衛自身が自分を出した「私語り」が含まれるが、立喰師列伝では押井守の「私語り」はあまり見られない

 しかし、この構造が求める最終目的が、「現代の日本そのもの」を語ることであるとするならば、それらの相違点は主要ではない手段であって、相違は些細な問題に過ぎないとも言えます。

押井守は方丈記私記を意識したか? §

 おそらく、このような二重構造を持つ作品は他にもいくらでもあるでしょう。

 しかし、押井守が小説「立喰師列伝」を書くにあたって、方丈記私記を意識的にか無意識的にか、参考にした可能性は十分にあり得ると思います。

 なぜなら、押井守に近い宮崎駿や鈴木敏夫は、古くからの堀田善衛のファンであり、親交があったとされるからです。特に、鈴木敏夫は今や押井守の代表作として名前が出ることが多い「イノセンス」のプロデューサを務め、その上「立喰師列伝」では「冷やしタヌキの政」として出演までしています。

 ここまで近い関係である以上、押井守が方丈記私記を手にする可能性は高いと思われるし、それを読んだ結果として方丈記私記の構造が「多重虚構」と相性が良いことも気付いた可能性があると思います。

「多重虚構」と方丈記 §

 そうです。

 立喰師列伝は、フィクション上の書籍を通してフィクションを語るという「二重虚構」の作品です。それは、そのように語らねば本当のことを語れなかったから、だろうと思います。

 そして、方丈記私記も一種の「二重虚構」としての側面を持ちます。まず、方丈記そのものを文字通り読んではならない可能性は本文中でも示唆されていますが、私が読んだ古い文庫版の後書きでは、堀田善衛の知人が作中の堀田善衛の振るまいが事実と相違するという指摘を行っていました。つまり、事実をベースにした一種の二重虚構が存在する可能性があります。

 この「事実をベースにした一種の二重虚構」という構造は、まさに戦後史という事実をベースにして二重虚構を語る立喰師列伝と同じ構造だと言えます。

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