「というわけで、ゲッサンだ」
「よく続いてるね。創刊からずっと買って読んでいるじゃないか」
「しかも、載っている漫画は全部読んでる。好きな漫画が載ってるから買ってるのではなく、ゲッサンという雑誌の読者になったということだ」
「でも、好き嫌いとかそういうのはあるんだろう?」
「まあね。でも平均水準が高いから全部読めるよ」
「それで、これはという作品は?」
「いろいろあって1本に絞りきれないけどね」
「じゃあ、直近で最ものけぞった作品は?」
「アオイホノオだ」
「理由は?」
「ヤマトだ。今月号はヤマトが出てくる。というか正確には沖田艦長かな。しかも、松本ヤマトのバカめの2コマを含んで掲載されていた」
「ははは、それは凄い」
「ともかく現役の漫画雑誌にヤマトが載ったことになる。凄いことだ」
「確かにそれは凄いね」
「それだけじゃないぞ。ヤマトファンとして有名な庵野監督の若い頃が、主人公のライバルとして延々と出てくる」
「時代的に一致している感じだね」
「ちなみに、作中で問題にされている女の子が銃を撃つアニメとバス停で待っているアニメは見ているような気がする」
「ほほう?」
「理由は良く覚えていないのだが、たぶんゼネプロ系の人たちと知り合いだという人から見せてもらったビデオだと思う」
「直接の関係者なの?」
「そうではないようだが、かなり近かったようだ。大阪人だったしね」
「それじゃ、アオイホノオの現場も知っている可能性がありそうだね」
「そうかもね」
「曖昧に言うね。よく知らないの?」
「そりゃ、もうかりまっか、こちとら東京生まれの東京育ちでっせ。ぼちぼちでんな」
「いや、ネタはいいから」
「だからさ、月刊ASCIIの初代編集長に会ってバイトを申し込んだら、今は受け付けていないと言われてあっさり蹴られたとかさ。そういうパパとママの青春を語る東京の思い出はあっても、大阪の思い出はない」
「へー」
「だから、大阪人みたいなものの考え方をすると言われたこともあるけど、物理的な実体としての身体が東京にある以上、そういう関係の経験はないぞ」
「でも、割と詳しいね」
「アニメックの愛読者であったが、実はゼネプロの連載があったとか、まあいろいろ事情はあるさ」
「でも、それだけでこうなるのかな?」
「たぶん、答えはもう明らかだ」
「というと?」
「共通バックグラウンドとしてのヤマト体験があるから、言わなくても通じてしまう部分があるのだと思うよ」
「そうか。だからアオイホノオにわざわざヤマトが出てきてバカめと」
「そうだ。バカめと言ってやるんだ」
「わあ、怒った怒った」
「そうなんだよ。実は安易なヤマトに怒っちゃうマニアっていう構図もあってね」
「というと?」
「敗戦で持ち込まれたアメリカのペーパーバッグのSF小説とかにショックを受けた世代だと、やはりヤマトはぬるくて論外ということになりかねない」
「実際、論外なの?」
「さあね。ただ、実はゼネプロ自身、ゼネラルプロダクツという名前がアメリカのSF小説から来ているから、生まれたときから分裂と崩壊の萌芽を孕んでいたような気がする」
「それで君はどうなんだい?」
「もちろん敗戦にはとっくに間に合わないヤマト世代さ。でもアメリカのSFも分からなくもない。けっこう翻訳小説は読んだしね。幼年期の終わりと地球幼年期の終わりのどっちを買うか悩んだり」
「なんか矛盾しているね」
「いいんだ。その矛盾をありのまま飲み込んでこそのヤマトファンだろう。綺麗に割り切れる宇宙など、単なる作り物の虚構に過ぎん。それに」
「それに?」
「それがヤマトのバックグラウンドを知ることにも繋がるしね」
「ええっ。そうなの?」
「SF的な設定の一部は明らかにアメリカSFの影響下にあるだろう」
「そんなものなの?」
「そりゃそうさ。そうでないならワープなんて言うかい。宇宙には空気があって、むきだしの戦闘機に乗って宇宙を飛んで、missin outer spaceというだけさ」
「それってスラングル……」
「空気があって上下もある宇宙が悪いとは言わない。というか、スラングルは好きだけどね。ヤマトでも宇宙に上下があるし」
「真上と真下。もろいものよのう」