我が輩は猫のインテグラである。
我が輩が好きなものは睡眠である。
特にあの家の自家用車のボンネットが最高である。
何しろ、冬でも日当たりが良く暖かい。
我が輩は毎日そこで、昼寝をしていた。
すると、みんなが我が輩を指さした。
しかし、我が輩に動く気は無かった。そこが特等席だったからだ。
だが、ある日、神様が降りてきたときに状況が変わった。
「猫や。おまえは何も仕事をしないでなぜ1日寝ているのかね」
「寝るのが好きだからです」
「では、おまえの理想は何かね?」
「いつまでもここで寝られることです」
「なるほど。永遠の眠りか」
「いや、そういう意味ではなくこの一家が引っ越して車をどこかに移動してしまわないという意味で」
「なんだ、違うのか。ちぇっ」
「まさか。あなたは神は神でも死神……」
「まあいい。では、そのボンネットの上で永遠に生きて寝られるようにしてやろう」
「えっ、本当ですか?」
「100%確実にな」
「わーい」
そして、我が輩は魔法の力を得て、ボンネットから誰も下ろせなくなった。人間が来て追い払おうとしても移動できず、無理矢理どかそうとしても持ち上げられなくなった。
神様は約束を守ったのだ。
しかし、1つだけ困ったことが起きた。
てこでも動かない猫として有名になると、さっそく見世物として我が輩と車は売り払われた。見世物小屋で我が輩は公開された。餌も睡眠も十分に与えられたが、車の置き場所が変化したため、ボンネットはもう気持ちの良い場所ではなかった。
しかし、神様の素晴らしい力で我が輩はそこから動くことができなかった。
神様は約束を守ったのだ。
(遠野秋彦・作 ©2010 TOHNO, Akihiko)