「ヨーロッパで遂にFirefoxのシェアがIEを超えたのだそうだ」
「へぇ」
「まあ、反アメリカの風潮が強いヨーロッパなら分からないこともない」
「アメリカの経済侵略の象徴的な尖兵だもんね。MSとIEは」
「アメリカに身も心も捧げちゃった日本とは受け止め方が違う」
「それで君の感想は? 最近、稲荷を見ることが多い君はおキツネさまの躍進に満足かい?」
「わははは、とんでもない。これで世界は順調にぐだぐだになっていくぞ」
「どういう意味で?」
「実質的にこれはAjax虐殺に等しい」
「なぜ?」
「いいかい。まず、どんなサイトもテストをしないで動作を保証できない」
「うん」
「標準に即していれば動くはずであるというのは、よくある妄想だ」
「そうなの?」
「嘘だと思うなら標準準拠度100%をうたうソフトを試してみるんだな。運が良ければ問題に突き当たらないで済むかもしれない」
「ははは」
「つまりだな。支配的なWebブラウザが存在しないということは、テストの手間が増える」
「以前はどうだったの?」
「IE以外のシェアは小さいから、他のWebブラウザの支持者は世間を理解しないガキがかっこつけてるだけだけど、そんな連中はどうせ金を払わないから無視していい、ということでIE対応だけでも良かった」
「でも、これからはどうなるの?」
「支配的なWebブラウザが存在しないとしても、テストに要する時間が増やせる訳じゃない。プロは元々予算が限られているし、趣味人も時間が潤沢にある訳じゃない。その結果、トラブルが起こりやすい非互換度の高い機能は使えなくなる」
「それってどの機能?」
「JavaSctiptだよ。つまりAjaxがどんどん使いにくくなる」
「それは悲劇だね」
「しかし、こういう話は理解されているとは言い難い」
「そうなの?」
「実際に、『Web 2.0など存在しない』と偉そうに豪語してFirefox使ってるガキとか、ネットに一山いくらで生息して居るぞ」
「Ajaxって、Web 2.0の一部なんだよね」
「そうだ。結局、Web 2.0が何であったのかといえば、能書きだけで中身がないWeb 1.0の世界から、コードを書く人間が主導権を取り戻すムーブメントであったと言える」
「じゃあ、こういうAjax叩きはWeb 1.0の逆襲ってこと?」
「そうとも言えない。むしろ、第3の勢力であるコードを書かないマニア層の横やりと見るべきだろう」
「どういう意味?」
「この第3勢力の特徴は、おそらく以下のように集約されるだろう」
- 自分でコードを書かない
- コレクション型である。ソースコードもコレクションするものである
- コードは書かないが文句は言う
「自分たちはコードを書く人間より偉いと言うわけだね」
「だから、コードを書く人間が主役になるムーブメントは徹底的に排斥されねばならない。彼らの立場としてはね」
「それも酷い話だね」
「でも、それがネットの現状というものだ」
余談 §
「丁度、昨夜開いたままのこのページのウィンドウが残っていた」
「これは……」
「同じ問題の変奏曲だろうな」
「まあ、どことなく似てるけどな」
「この問題は善意を前提とするシステムに対して、この第3勢力が好ましくない影響を及ぼしていると見るべきだろう」
「自分たちは生産しないのに、文句は多いってことだね」
「同時に、善意を前提にするシステムは破綻して当たり前であることを如実に証明していることにもなる」
「ははは。ゴーストアイもきついな」
「むしろ、この世界に偏在する子供じみた悪意とどう向き合うのかが今時の社会の課題というものだろう」
「どうして『今時』なんだい?」
「ネットという噴出径路が与えられてしまったからさ」