「かなり前に書いた原稿だが、いろいろな事情でかなり遅れた」
「へぇ」
「なんと、赤坂サカスにヤマトがいた頃に書かれている」
「そうか」
「でも、これ以上は引っ張れないのでここで公開しておくが、書いた時期の問題は無修正で行くぞ」
本題 §
「Sma-STATION!等、実写版の評判が予想外にいい。赤坂サカスのヤマトも一時波動砲発射が中止になったが翌日から復活したらしい。軽井沢シンドロームOVAや月曜ドラマランドの時代とはもう違うのかも知れないが、このことが意外なので、理由を考えてみた」
「なぜだろう?」
「実は、ヤマト劇場第1作の問題を考えることとイコールになった」
「どういうこと?」
「ヤマト劇場第1作は右翼アニメとして見ることができてしまうが、実写版は泣ける宇宙冒険映画であるということだ」
「詳しく説明してよ」
「ヤマト劇場第1作は基本的に七色星団の決戦が軸になっている。バラン星は出てこないし、冥王星はダイジェストだ」
「うん」
「かろうじてガミラス本星の戦いはあるぐらいだ」
「そうだね」
「でもさ。実は七色星団って作画的には凄いけど、シナリオ的にはあまり出来がいいとは言えない。何しろ、ドリルミサイルの逆転と空母壊滅の因果関係がはっきりしない。しかも不用意に空母をヤマトに近づけすぎたり、ブラックタイガーが警戒役も残さず全機着艦してしまったり、不用意な描写も多い」
「うん」
「とどめはドメルの自爆だ。ヤマトがこれに耐えた理由は何も無い。というか、ドメルはヤマトを倒せると考えて自爆を準備したはずなのに、なぜ倒せなかったのかが不明瞭だ。ドメルの予測が間違っていたと考えるのは簡単だが、命を捨てるにしてはずさんすぎる計画だ」
「そう言われるとそうだね」
「実はバラン星の方がずっといい。ヤマトの方向転換速度よりも速く人工太陽をぶつけるというのは意味が分かるし、デスラー総統からの電話で動揺してボタンを離してしまうのも分かる」
「確かに逆転する状況だと分かるエピソードだってことだね」
「押しボタン式というのが問題だという意見もあるが、支持してくれたはずのデスラーから行動を否定されてドメルは動揺したんだ。人工太陽を落としていいか迷う気持ちがここでは重要だ」
「だから人工太陽の動きが鈍るわけだね」
「その点で、実写版は七色星団相当のエピソードはあるが、第3艦橋を切り離すという苦渋の決断で敵艦の自爆からヤマトを救っているんだ」
「なるほど。精神主義ではなく理屈があるってことだね」
「うん。人知を尽くして天佑を信じたら耐えられました、という話ではない。犠牲と引き替えに生き延びたという話なんだ」
「だから泣けるわけだね」
「逆に言えば、ヤマトをただの右翼アニメと決めつける風潮の原点はここ(ヤマト劇場第1作)にあるのかもしれない」
「テレビシリーズからは出てきにくい感想だものね」
「だいたい、ひたすら通信してパーティーやって酒飲んでさよならを言うだけで1エピソード作ったり、捕虜を殺しに行ったはずが自殺するのを止めちゃうとか、そんなエピソードも多いのに、ただの右翼アニメって感想が出てくる方がおかしい」
「でも、ヤマト劇場第1作をベースに語っていればあり得る話だね。そういう変な話はみんなカットされているから」
余談 §
「でもさ。捕虜を殺しに行ったはずが自殺するのを止めちゃうのはおかしいって、真顔で言う人もいるぜ。うろ覚えだけど、実際に会ったことあるもん」
「その矛盾が人間らしさってことだが、それを人間らしさと解釈できない人はいてもおかしくない」
「でも、矛盾してるようで矛盾してないんじゃないか?」
「そうだ。実際は矛盾してない。古代の行動原理はそれほど複雑ではない。ただ、敵と味方という単純な色分けをしてしまうと見えなくなってしまうだけだ」
「敵だから殺す、味方だから助けると思うと、古代の行動は意味不明だものね」
「逆に言うと、作品を分類する1つの分水嶺がそこにある」
「たとえば何だろう?」
「スターウォーズと未知との遭遇を対比すると分かる。スターウォーズは帝国軍と反乱軍という2つに綺麗に分かれるが、未知との遭遇は人類と宇宙人に綺麗に分かれるわけではない。実は、宇宙人派の地球人という微妙な立場の人間が主人公になる」
「そうか。古代も実はあとからデスラーと奇妙な友情を持ってしまったり、立場が微妙ってことだね」
「敵だから倒すという粗雑な世界観では対応できない領域だ」
「では、敵だから倒すという価値観ではない別の価値観は何と呼べばいいのだろうか?」
「愛……なんだろうな」
更に余談 §
「この分水嶺は実は今時のカード等のバトルアニメで典型的に出てくるのだ。意外なことにね」
「というと?」
「5D'sで今やっている話は、実は破局を回避するために未来から歴史を変えに来た人物が敵なのだ。対抗する主人公は今を守っているようで実は未来の破壊者として糾弾される立場だ」
「へぇ」
「ニューヴェストロイアは、3勢力の3すくみとなっているばかりか、敵だったはずの相手に協力させるような話まで出てくる」
「なるほど」
「ブレイヴに至っては、魔族と戦うために未来に呼ばれたはずの主人公が魔族の子供を人間達の人質から救出して一緒に旅をしている。更に、魔族の月光のバローネとは仲良くなってしまって、安全な航路まで教えてもらう。逆に主人公に敵意を抱く人間もどんどん増えるし、月光のバローネも魔族での立場がどんどん危うくなってしまう」
「やたら複雑で微妙な話だね」
「だから、その微妙さが捕虜を殺しに行ったはずが自殺するのを止めちゃう古代の微妙さと同じなんだよ。それを前向きに受け止められるか否かで世界の見え方は大きく変わる」
「建前はあくまで建前で、問題はその先ってことだね」
「だから、その先が見えないと問題は解決できない。見せかけで提示された問題と真の問題は違うからね」
「そうか。だからその微妙さの先にいる古代が艦長代理で島は指名されないわけか」