「本題の前に1つだけ余談を書こう」
「なに?」
「アイドルだからと言って馬鹿にしたものではない。大人っぽいファッションのミュージシャンの音楽がぬるくて退屈することもある。中身を見るまでは決められない……というような話を以前にしたと思う」
「うん。何となくそんなことを言ってたね」
「でも、そうそう良い例など転がってはいないとも思った」
「ははは」
「ところが、油断していた」
「なにがあったんだい?」
「実は、再放送のドラマを1本なんとなく予約したのだよ」
「理由は?」
「ランダムな選択。別に理由なんてない。強いて言えば、宇宙犬作戦が終わって、33分探偵や3代目明智小五郎もとっくに昔になって、何となく可能性を探ってみたかった」
「で、何を予約したんだい?」
「マジすか学園の第1話(再放送)だ」
「どんなの?」
「秋元康プロデュースのAKB48主演のドラマだ」
「アイドルものってことか」
「君もそれを聞いてなめたね」
「いやいた。なめてないよ。色眼鏡は掛けないよ」
「でも、その言い方はなめてるよね」
「まあ、そうかも。AKBだし。あれだけ人数がいたら、できることにも限りがあるだろう。おニャン子クラブから選抜してスケバン刑事やるのとは違う」
「おいらもそう思った」
「違うの?」
「見てひっくりかえった」
「中身は荒れた女子高の不良ものであり、女性的な可愛さなんてものはほとんど出てこない。ひらすら怖い。校内はゴミと落書きだらけで荒廃しているし、図書室は喧嘩用になっているし、授業中に校内で焼き肉食ってる連中はいるし、武闘派の連中もいるし、先生はなめられてるし。女の子のアイドル的な可愛さとはほとんど無縁だ」
「なるほど」
「実はヒロインですらメガネを掛けた地味な少女でしかなく、どちらかといえば華がない作品だ」
「そんな地味じゃ印象に残らないじゃん。ヒロインと言えるの?」
「印象に残る。なぜなら実は喧嘩がめっぽう強いからだ」
「アイドルの特徴じゃねえ!」
「それだけやって、それでも学芸会の延長と謙遜するゆとりもあるのがいいね」
「AKBおそるべし、といったところかな」
「アイドルだからってなめると痛い目を見るぜってことだ」
「そういうこともあるわけだね」
本題 §
「すげえことに気付いた」
「なに?」
「SPACE BATTLESHIP ヤマトでテレザートに降下するわけだが、そこでのメンツが正確すぎる」
「ええっ?」
「テレザート+都市帝国戦なので、ブラックタイガー隊員が付いてくるのは仕方がない」
「うん」
「だけど、それを除外すると正確にぴたりなのだ」
「どういうこと?」
「SPACE BATTLESHIP ヤマトで降下するのはパイロットを除外すると空間騎兵隊+古代+真田だ」
「うん」
「さらば宇宙戦艦ヤマトの場合、まず空間騎兵隊が降下して、あとから多弾頭砲を持って古代+真田+アナライザーが降下する」
「アナライザーが浮いてるね」
「そうだ。しかし、SPACE BATTLESHIP ヤマトでもアナライザーは戦闘機の操縦アシストユニットとして古代と一緒に降下しているから、それで完全一致なんだよ」
「えーっ」
「SPACE BATTLESHIP ヤマトって、変なところで律儀でマニアック」
「ぜんぜん違う映画なのにね」
「だから『違う違う』と騒ぐのは浅すぎる」
「真のマニアは、こういうレイヤーでの奇妙な一致点を発見しては喜ぶわけだね」
「愉快犯的なひそかな感覚を共有できるのだ」
「作り手と客という立場を離れて、密かな秘密を共有する同志になれるわけだね」
真田とアナライザーと斎藤の問題 §
「最初のテレビシリーズで真田の相棒はアナライザーだ」
「なぜ?」
「コントロール機雷とかドリルミサイルは、真田が指示してアナライザーが作業をするコンビだ」
「なるほど」
「では、SPACE BATTLESHIP ヤマトではどうか」
「アナライザーが古代の家族みたいなものになった結果として、その関係は崩れているね」
「そうだ、その代わりに真田の相棒になったのが斎藤といえる」
「なぜ?」
「敵機を回収した際、真田が指示をして斎藤がサンプルを採取するからだ。慌てず急いで正確にな」
「そうか」
「その結果として、2人はスポックとマッコイにも喩えらることができる凸凹コンビとなって、全体がラストの2人だけのガミラス中枢爆破へとスムーズにつながるようになった」
「そうだね。映画としての筋が通ったね」
「だから、この映画にはもともとアナライザーの出番が無かったんだよ。後からスタッフに言われて追加したのがアナライザーの出番なのだ」
「そうか、元々のシナリオ上のアナライザーの出番は実際には斎藤が担っていた訳か」
「それが本来イスカンダルへの旅で乗っていないはずの斎藤が乗っている必然性ともいえる」
「アナライザー不在の空白を埋める立場なのだね」
「でも最終的に、アナライザーの出番は復活して登場した」
「アナライザーの出ないヤマトなんて、何とかを入れないコーヒーみたいなものだから?」
「それもそうだが、どこに出番を作るのかが問題だ」
「どうでもいいシーンでスカートめくって森雪に殴られるような使い方はしなかったわけだね」
「テレザートに降下するメンツという意味でアナライザーが加われば完璧だと気付いたからここで自律モードを起動させたのだろう」
「なるほど」
「そういう意味で、実は森雪に男として敗北する役目はアナライザーではなく古屋に割り振られたとも言える」
「恋愛感情はないけど、いきなり殴られるしね」
「そうだ。恋愛感情は無い。方言があるだけだ」
「なぜ恋愛感情は無いんだろう」
「そんな時期ではないんだ。地球は、無謀だとか、保証だとか、恋愛感情だとか、そんなことで躊躇していられる状態ではもはや無いのだ」
「確かに……。エース争いの仕事上のライバルだし」
「逆に言えば、古代と森雪の間に恋愛感情が生まれるのは、絶対に踏み越えられないギャップがあるからだとも言える」
「上司と部下だしね」
「沖田と佐渡の関係も同じだ。やはり踏み越えられないギャップがあるから、佐渡は沖田に恋愛感情を抱ける。まあ映画では不明瞭だけどな」
「なるほど」
「一方で、古代と相原の恋愛関係は何も無い。おそらくギャップが無いからだろう」
「筋トレしても呆れられるだけ。けして男の筋肉にときめいてはくれない」
「佐渡と徳川も一緒に酒を飲んでも何も発展がない。これもギャップが無いからだろう」
「確かに徳川は酒が飲みたいだけという顔だね」
オマケ §
「アナライザーがヤマトに乗っている理由は明確ではない」
「うん。押しかけだものね」
「だから、整合性を取るためにあくまで古代の私物という位置づけに後退させるのは1つのこだわりだろう」
「それもヤマト愛の一種だということだね」
「しかし、アナライザーの位置づけを後退させると致命的な空白が発生してしまう」
「うん。真田の相棒が不在になる」
「だから、そこで斎藤を出すわけだ。ここに斎藤が出てくる必然性が生じる」
「確かに」
「更に、感情的で男らしい粗野な斎藤というキャラからこぼれ落ちる空白が更にある」
「戦車まで持ち上げる力持ちのアナライザーが平然と子供っぽい行動に出られる側面だね」
「それを古屋が担ったことになる」
「なるほど。そこに、古屋が出る必然性があるわけだね」
「新キャラには新キャラの必然性が全員想定できるのだろう」
「じゃあ佐々木は?」
「席が余るんだよ。アナライザーが古代の私物になり、南部が古代の横に移動した結果として、1つだけ第1艦橋に席が余ってしまうんだ」
「それを埋めるためか」
「そういう意味で佐々木もアナライザーの穴埋め要員といえる」
緑のオマケ §
「よく考えると島はウハウハだな」
「どうして?」
「第1艦橋の勢力配置だ」
- 青→真田(男)、太田(男)
- 緑→島(男)、相原(女)、佐々木(女)
- 赤→古代(男)、南部(男)
「なるほど。第1艦橋の女性勢力を島が独り占めだね」
「それなのに息子に甘い子煩悩パパってどういうことだよ」
「ははは」
「しかも、最初に森雪と友好的に会話したのも島だぜ」
「女たらしの島」
「だから子供がいるんだよ。女にまめなタイプだから」
「古代はまだ独身だって言うのにね」
「古代はお兄ちゃんっ子だから。女よりお兄ちゃんだから」
「そういえばそうだね。沖田に食ってかかるのも兄の死が原因だし、最初に持っていることが示されるのも兄との写真だ。そして、最後に雪の胸に押し込むのも兄との写真だ」
「雪の胸の膨らみよりもおにいちゃん」
「そうだ。お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん。ことあるごとにお兄ちゃん。まるで古代は『週刊わたしのおにいちゃん』だ」
「わたおに古代……」
「森雪が当初怒るのも無理はない。女よりお兄ちゃんじゃね」
「最後は、女が待つカーゴより、お兄ちゃんが待っている天国に行くわけだね」
「ああそうか。そう思うなら、古代が待つヤマトに戻らず、母が待つ天国に行ったサーシャと構造は同じか」