「いわゆる自炊道具一式である」
「一人暮らしでも始めたのか?」
「そうそう。一人で食事作って暮らしてるよ。ってちがーう」
「じゃあなんだい?」
「自炊っていうのは、本を解体してデジタルデータに取り込む行為を自分で行うことを示すネットのスラングだ」
「本来の意味と違うじゃん」
「そうだ。文字で検索するのが基本であるネットでは迷惑な話だ」
「なんで迷惑なことをするんだろう?」
「坊やだからさ」
「自分のすることの悪影響を想像できないってことだね。社会経験が少ないから」
「あるいは、犯罪行為の隠蔽だな」
「犯罪?」
「デジタルデータになれば、無制限に配布できちゃうからな」
「それはあからさまな犯罪行為だね。だから、それが分かりにくいように、既存の言葉に紛れ込ませるわけか」
「ま、おいらには関係無いことだがな」
「無制限に他人に見せる気は無いって事だね」
「当然だ」
「じゃあ、ここでは自炊って言葉は使わない方がいいね」
「じゃ、仮に書籍デジ化と呼ぼう」
書籍デジ化の手順 §
「基本的に書籍デジ化を行うには解体→スキャン→確認→整理の4手順を要する」
- 解体 スキャンできるように1枚の紙の連続になるよう、本をバラす
- スキャン スキャナで取り込む
- 確認 抜けが無いことを確かめる
- 整理 整理分類してファイルとして保管する
「なるほど」
「このうち、面倒なのは解体と確認だ」
「なぜ?」
「解体はカットが浅いとページがつながった状態で残る。深いと、文字や絵を深くえぐり取ってしまい読めなくなる」
「難しいってことだね」
「確認は、目で見ないと分からない。こちらは、最初にページ番号を確認できるページと最後にページ番号を確認できるページの差分が一致していることを確認しているだけだが、それでもけっこう面倒」
「スキャンは面倒じゃないの?」
「実はほとんど自動でできる」
PLUS PK-513L §
「定番の裁断機だ。LEDで裁断する線が照らされるので作業しやすい」
「そうか」
「でも、どこまで深くカットすればいいか、教えてくれるわけではない」
「そのへんは利用者の判断次第ってことだね」
「経験値次第で使い勝手は大幅に変わる」
「そうか」
「あと、針金で製本してあるケースはカットする前に針金を外そう。歯を痛める」
STRAIGHT ヒートガン §
「ノリで製本してある場合はヒートガンで溶かして柔らかくすると取れやすくなる」
「そうか」
「小説本ではあまり出番が無いが、絵が多い本だとできるだけ絵をカットしたくない場合もあるだろう。そういう場合は有効だ」
「そうか」
「あと、分厚すぎてそのままカットできない本も、これで暖めるとバラしやすくなる」
「メリットは多いね」
「でも、熱風の温度が高いから、いくら形状がドライヤーに似ていても注意が必要だ」
「怖いってことだね」
「実は経験値を積んで、カットに対する割り切りができると、あまり出番が無い」
「強力だけどあまり出番が無いわけか」
SnapScan S1500 §
「ADF付きのスキャナだ。そのまま複数ページがPDFに落ちる」
「それは便利だね」
「いやいや。実はADF付きのスキャナはずっと前から持っている」
「えっ?」
「これで3台目なんだ。前の2台は複合機でスキャナも付いてるだけなんだけどね」
「なら。なぜ新しいのを買ったのだ?」
「前の2台は論外に機能がダメダメだったからだ」
「どこが違うの?」
「両面取り込みができるとか、そういう差異もある。でも最大の相違点は、紙送りミスの確率が極めて低いことだ」
「えっ?」
「性能面では使ってみるまで分からないと思うが、ここが重要。上手く裁断ができていれば、ほとんど紙送りをミスしない。このポイントが高い」
「まさか」
「これまでの機種の利用経験から、ミスが多くて手間が掛かりすぎると思っていたが、驚くほど手間が掛からないよ」
「それは凄いな」
問題点 §
「問題点ってなんだい?」
「慣れると爆速で取り込める。驚くほどのハイペースで本が取り込まれていく。でも、それは慣れた後の話だ。最初にやるときは、要領が分からず、1時間ぐらいレンタルスペースを借りても何もできないまま終わるだろう」
「経験値を貯めることが重要ってことだね」
「だから、1冊や2冊ならあまり意味は無い。10冊単位で取り込む本があるときに利用するべきだろう」
「なるほど」
「それからもう1つ」
「なんだい?」
「裁断機もスキャナも書籍デジ化用の製品では無い。他の用途の製品を転用しているだけだ」
「それがどうした?」
「だから、たいていの本に対して許容する厚さが足りなすぎる」
「えっ?」
「まず、本が少し厚くなると裁断機に入らなくなる。裁断機に入るサイズにまず分割する必要がある」
「そうか」
「スキャナも本1冊分のページをまずセットできない。薄めの本でも2~3分割してセットする必要がある。スキャンが終わったら継ぎ足して継続させる手間が必要だ」
「なるほど。それは手間が掛かるね」
「強引に多数の紙を突っ込むと誤動作が起きやすくなるので、それはお勧めでは無い」
「なるほど」
「それから、向きの自動検出は失敗する可能性が高いから、切っておく方がいい。正しい向きにセットして補正させない方がいい」
「むむ。赤裸々なノウハウだ」
「あと、継続読み取りはできるから、カバーや表紙も含めて全て1ファイルにまとめるようにスキャンすると後々扱いやすいよ」
「この本文に対応する表紙はどれだっけ、と探さなくて済むってことだね」
終わりに §
「知人から一式借りて、あまりに使えるので一式を買い取ってしまった。だから全部中古だよ」
「そんなに良かった?」
「うん」
「何が良かった?」
「価値がある本は残すが、処分して良い本は処分する。このポリシーはもう徹底している」
「それで?」
「問題は、中間領域で割り切れずに残った本がかなり多いことだ」
「えっ?」
「処分はなんとなく抵抗感があるけど、物体として場所を占有していることにも不満がある本だ」
「あとで見たいと思うかも知れないが、実体として残すほどには思い入れが無い本ってことだね」
「そうだ。実はそういう本がかなり残ってしまったのだ」
「たとえば?」
「ゲームの攻略本。あとでやり込むときに参照するかもしれないが、当面があっても意味が無い。やり込むことがあるのか無いのかも分からない」
「なるほど。アルティマニアとか分厚いし、1タイトルに数冊あるしね」
「あと史上最強の弟子ケンイチは17巻以降全部集めたんだけど、捨てるに忍びないが保存しておくほどでもない。奇面組の単行本もけっこうあるけど、実は同じ。昔集めた山田ミネコのコミックもそれに近いかな」
「そうか。そんな本が山ほど残ったら書籍デジ化で対処するのが最適ってことか」
「1冊5~10分ぐらいの手間を使ってあげてもいい、という位の気持ちはあるけど、物体として残す意欲は無いってことだ」
補足 §
「横に出ているヒートガンの製品は持ってる奴とは違うので注意してくれ」