「マジック・ツリーハウスは、テレビの宣伝を見て、なんかイマイチピンと来なかった」
「そうか」
「でもさ。念のため調べたら監督 - 錦織博ということが分かった」
「誰それ?」
「どこかで見た名前だが、一応それも調べた。その結果以下のことが分かった」
- ザ☆ドラえもんズ 怪盗ドラパン謎の挑戦状!(1997年、演出)
「これに何か意味があるの?」
「ドラえもん映画は全部見ているわけでは無いが、少なくとも見た映画でいちばん良かったのがこれなのだ。ある意味別格だな。なので、その映画を演出した人が監督をするのなら、見てみたいと思った。何かあるのだろうと思った」
「実際に見て、どうだったの?」
「半分は当たり半分は外れた」
「えー」
良いところ §
「序盤の、カエルの目線の高さでカエルが教室内を疾走するシーンとか、凄く爽快で刺激的だ。意外性もあって凄くいい。大人達があくまで大人達として描かれているのもいい」
「そうか」
「ネズミになったモーガンに1本だけ長い毛があるが、これがキャラクターの特徴を示す記号になっているのと当時に、これを撫でるという仕草に美女のセクシーさがあって、二重の意味を持たせてある。これは上手い表現だ」
「そうか」
「しかし、最も良いのは、基本的にメガネの主人公少年が挫折するところだな」
「挫折?」
「作中の4つの冒険には以下の4つの役割がある」
- 起・予期しない冒険
- 承・意図した冒険の成功
- 転・気が大きくなった主人公に冷水を浴びせて挫折させる
- 結・挫折を克服して一回り大きくなる
「転で挫折する訳か」
「手加減しないで徹底的に挫折させる。その部分が非常に優れている。子供は成長するために挫折するものだから、そこで手を抜かないのはとても良いことだ」
「そうか」
「特に、大人の男を出し抜いて、大人の女から援助を要請され、気が大きくなった主人公が挫折するところがいいね」
「そうか」
「実は敵の構成も良いのだ」
「どうして?」
「暴力の担い手が転だけ違うのだ」
「どう違うの?」
「以下を見てくれ」
- 恐竜
- 兵士
- 火山
- 海賊
「そうか。火山だけ生き物じゃないんだね」
「そうだ。自然現象だ。圧倒的な現象は出し抜けない」
「そうか。だから挫折するわけだね」
「構成的に言うと、起と結は相似形なんだ。結は起の語り直しなんだ」
「えー」
「つまりさ。『暴君の暴力に対して、その土地の援助者の力を得て、自滅を誘う』のだ」
「自滅?」
「崖から落ちたり、暴発した銃が火薬に命中するといった展開だな」
「そうか」
「しかし、恐怖を知った主人公は、何も知らないまま偶然克服した暴力を再び意識的に克服する必要に迫られる。それが結は起の語り直しという意味だ。だから、海賊の親分とティラノザウルスは立場が同じなのだ」
問題点 §
「じゃあ、この映画の問題点って何?」
「突っ込みどころは満載さ。おそらくその多くは人気原作から来たもので、文句を言っても始まらない性質のものだろう」
「それ以外の問題は?」
「原作が膨大すぎて上手く収まっていない部分があると思われる」
「そうか」
「だが、それ以上に問題なのは、作画のパワーが落ちてることじゃないか、という気がする。良いところは良いが、イマイチという部分もある。昔なら、技術は未熟でももっと魅せる絵が作れたと思う」
「アニメの落日?」
「しょせん、人生経験もろくに踏まないでアニメーターになっても、演技者としてのアニメーターにはなれないのだ」
「身体的リアリティが足りないわけだね」
「それからもう1つ。アメリカが舞台なのは日本人には親しみにくいかもしれない」
「だけど、世界マーケットで商売するにはリアルなアメリカを描く必要があるってことだね」
「しょうがないと分かっていても、ちょっと厳しいような気もする。助けてよ、ヒーローマン!」
ドラえもんの影が見えるか §
「さて。この映画は、ドラえもんの影がうっすら見えるような気もする」
「なぜ?」
「主人公は運動が不得意なメガネの少年。でも、最後は勇気を振り絞って暴力に立ち向かう」
「大長編ののび太だね」
「妹はドラミで、主人公の相手役の女の子はしずかちゃん。そして、最終的な敵として出てくる海賊の親分がジャイアン」
「そうか」
「そして、ここが重大ポイント」
「何?」
「恐竜のことは詳しくないのでよく知らないが、比較的新しい恐竜像に沿って第1部が描いてある。渡りをして子育てをして羽毛が生えている恐竜像だ。これは、1993年の『ドラミちゃん ハロー恐竜キッズ!!』と重なる特徴だ」
「えー」
オマケ §
「でもさ。そう考えると主人公の相棒の妹が、ドラえもんでは無く、『黄色い妹』というドラミ型なのも明らかだ」
「『ドラミちゃん ハロー恐竜キッズ!!』はドラえもんではなくドラミがメインってことだね」
「ついでに、あえて当てはめると、いるだけで役に立たないピーナッツがドラえもんで、ピーナッツを送り込むマーリンがセワシに当てはまるのだ」