「家族が慌てて呼んでるので何かと思ったら杉並高校吹奏楽部がテレビに出ていた」
「君はそこの卒業生?」
「いや、自分は縁が無い。通ったことも受験したことも無い」
「じゃあ、縁が無いじゃん」
「そうでもない。実は自転車で直進して鎌倉街道沿いに阿佐ヶ谷方面に突っ切ると杉並高校の前を通るのだ」
「なるほど。見慣れた学校ということだね」
「それに、弟が杉並高校に通っていたのだ」
「なるほど。家族の目の色も変わるだけだね」
「それだけじゃない」
「まだあるの?」
「弟は吹奏楽部で、現役時代は学祭で聞きに行ったこともある位だ」
「えー」
「弟の後輩がテレビに出たわけで、凄く親しいわけでは無いが、かなり間接的に近い関係だった」
「それは驚くね」
「しかも、出ていた先生を覚えていた家族までいたよ」
「ひ~」
位置不明の高校群 §
「高校受験の頃、高校の選択は第1に偏差値で第2に場所だった」
「それで?」
「だから、杉並とか豊多摩とか西とか富士とか名前だけはよく取りざたされていて、偏差値とおおざっぱな位置だけは良く会話に出た」
「ならよく知っていたわけだね?」
「いや。実は実際にどこにあるのか。どうやって行けばいいのかは明確ではなかったのだ」
「えー」
「だから、自転車で走り回って、杉並とか豊多摩とか西とか富士とかに遭遇して『そうか、ここだったのか』と今さら納得した場所も多い」
「他には?」
「永福小学校とか永福高校は、名前をよく聞いて場所もおおむね知っていたにも関わらず、実際に見たのはほんの数年前。まあ既に永福高校は無いけどね」
「ひぇ~」
「意外とそんなものよ。家と自分が通う学校、家と駅、家と商店街の間以外は、なかなか歩かないから」